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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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円城の辻(9) ★★★ |
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円城の辻(えんじょうのつじ)の取扱説明書 いつの頃からか、ライダーの聖地と謳われて久しい道の駅円城。週末ともなれば県の内外を問わず単車が集い、四輪での進入が場違いと思わせるほど凌駕する。山陽方面からも山陰側からも上り勾配のピークに位置する現場は、感覚的にも距離的にも一服するには丁度良い。多くのライダー&ドライバーが日頃何気なく行き来している道でもあるが、99.9%の者が円城へ至る道筋の正体を知らぬまま、この世の春を謳歌している。何を隠そう僕もその一人だ。正確を期せば、僕もその一人“だった”。沿道一帯には旧道のそれと分かる無数の残骸が散見されるが、それらを丁寧になぞる過程で、僕の想像を遥かに超える驚くべき現実を目の当たりにする。これまで培ってきた道路感が音を立てて崩れる、それくらいのインパクトは必至の炎上、いや円城の辻の真髄を御覧頂こう。 |
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◆切池橋直後の交点には上田口停留所がポツンと佇む 橋長が10mに満たない短橋梁の切池橋を渡ると、進行方向左手の明後日の方角へ駆け上がる一本の支線を捉える。交点の片隅にはバス停が置かれており、上田口と刷られているその現場付近には、残念ながら人家らしきものは一軒も見当たらない。 この交点にバスが停車し降りる人がいるとすれば、支線を上って行くのではなかろうか。恐らくその先には数軒の人家があって、国道上からはその存在を確認する事は叶わぬが、時折バス待ちの村人が立っていたりいなかったりラジバンダリするのではないかと察する。 |
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◆上田口バス停の先で歩道の幅員は1.5車線へと拡がる 勿論バス停よりも遡上した先に民家が構えている可能性もあるにはあるが、見通しの利く直線路の両サイドには、それらしき建物は一切認められない。それどころか周囲は灌木が放置された雑木林と、国道に沿って理路整然と並ぶ植林杉に囲まれた無人地帯と化している。 一時期は徒歩道サイズまで狭まった歩道も、ここに来て三度2トントラックが通行可能なレベルへと拡がっている。勿論その歩道自体がかつての国道なんであるが、その外側に二車線路を豪快に併設させている現場の線形から、従来の路を生かしつつ大型公共工事が展開していた様子が窺える。 |
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◆S字カーブの片割れは待避所でもう片方は激藪が待つ 1〜1.5線しかなかった旧来の路を行き来していた車両のドライバーは、現道の両サイドで日々刻々と進捗する高規格道路の容姿を目の当たりにし、そう遠くない未来に対向車を意識する事なく往来可能な快走路の開通を、例外なく心待ちにしていたに違いない。その当時のワクワク感たるや半端無い。 上田口停留所からしばらく直線で上り詰めた路は、その後緩やかなS字カーブを描くのだが、コーナーの外側を膨らむ形で待避所が設けられている。新道によって分断された旧道の一部であるが、その片割れが猛烈な激藪と化し、皆様のお越しを心待ちにしておられる。 |
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◆かつてS字カーブを描いていた旧道は藪に没している 現道との落差があり過ぎて、藪道は正直見るに堪えない。叶うなら見て見ぬフリをしてスルーしたい。シーズンオフでさえ萎える現場の様子から、シーズン中はトンデモナイ事になるのは火を見るより明らか。何せ雑木林の大方が極太の棘が絡み合う壮絶な惨状で、素手で立ち向かうのはほぼ絶望的である。 例え手ノコや枝切鋏等の小道具を駆使して、関わりたくないというのが一般的な感覚で、手に負えないというのが大方の感想であろう。事実50mに満たない短区間ではあるけれど、僕は想像以上の苦戦を強いられ、半泣き状態に陥った。切っても切ってもキリが無いエンドレス状態に、心が折れそうになった。 |
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◆普段は密度の濃い棘の塊で歩行者の侵入も許さない これまで数多の旧廃道と対峙してきたが、この現場のような棘率80%というのは、過去に記憶が無い。様々な木々の枝葉に紛れて数%の棘というのは珍しくもないが、八割方が棘というのは実に性質が悪い。枝葉を一本一本丁寧に削ぐようなもので、気の遠くなるような時間と労力を強いられ、全く埒が明かない。 灌木や倒木が入り乱れ、そこに根曲竹のオマケが付いていたとしても、その方がまだマシなくらいだ。柔軟性があるのでポキッとは簡単に折れてくれない。そして何と言ってもトゲが痛いのでまともに掴めない。兎に角ハサミで丁寧にチョキチョキ切っていくしかないという点で、非常に厄介な代物なんである。 |
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◆廃道に根付いて十余年モノの椿のトンネルを潜る まるで盆栽の剪定をする庭師の如し丁寧さを求められつつ、それでいて1円にもならないのでモチベーションの急降下は免れない。いくら我慢強い日本人とはいえ、駄目だこりゃ、次行ってみよう!となっても何等不思議でない。切っても切っても先が見えない金太郎飴仕様で、どんな人でも疲弊してくる。 最初は「おまんら許さんぜよ!」と意気込むも、途中から「どないなってますのん?」と首を傾げ、どこかの地点で「コレ、あかんやつやん!」と気付いた時にはもう手遅れ。トゲトゲにやられて手は傷だらけで、もう勘弁してくれ!と魂の叫びがこだまし、心身共にズタボロになっている。 |
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◆実に数十年ぶりに車両を通すであろう棘の洞門 それでも神は乗り越えられない試練は与えない。絶望の淵で一筋の光明が差す。木々の隙間に着地すべきゴールを捉えたのだ。先が見えると人は気力が沸いてくる。コンニャロ・コンニャロ!と最後の力を振り絞る。 振り向けば壁の如し立ち塞がった棘の塊が粉砕し、まるで手掘トンネルの如し歪な円を描く。車両の通行は何十年ぶりであろうか?僅か数ヶ月の短命ではあるけれど、ここにモーゼの十戒の如し小径が拓かれた。 円城の辻10へ進む 円城の辻8戻る |