教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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畑ヶ鳴峠(25)

★★★

畑ヶ鳴峠(はたごなるとうげ)の取扱説明書

世の中には地図に刷られている峠名と現地に掲げられている峠名がマッチングしない案件が存在する。国道484号線の畑ヶ鳴峠もその一つだ。ひとつの峠に複数の呼称があるのは然程珍しい訳ではない。峠の前後左右で名称が異なるのは何等不自然ではないし、どれが間違っていてどれが正しいとも言い切れない。世に出回っている地図の原本となる国土地理院の地形図は、2018年現在山の神峠と謳っている。その為市販の地図はそれに従い山の神と刷り込んである。現場は取るに足らない平易な峠で、未来永劫歴史の道踏査報告書で取り扱う日は来ないであろう、そう思い込んでいた、つい最近までは。ところが無視する訳にはいかない驚愕の事実に直面する。全ては知る人ぞ知る秘境カフェ「ナップビレッジ」に始まる。ここに立ち寄ったが最後、単なる峠越えに終始しないコアな世界へと引き摺り込まれていく。本来は酷道として名高い畑ヶ鳴峠であるが、その殻を打ち砕くに十分な破壊力を秘めている同区の真髄を御覧頂こう。

 

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◆道の駅が置かれる国道429号線と県道372号線の辻

道の駅が隣接する国道429号線との十字路で、県道372号線を冠されたアドベンチャーコースは終点を迎える。ライダーの聖地とされる道の駅で一服し、北へ向かうか南へ下るか、それとも今しばらく続く直進の県道を上り詰めるか、その三択に対し選択肢はひとつしかないと古地図は語る。

今でこそ道の駅の十字路は、ライダー&ドライバーのオアシスとなっているが、かつてそこは単なる通過点に過ぎなかった。二車線同士の車道が交わる交通の要衝ではあるが、一時代前は1〜1.5車線同士の砂利道が交差し、道の駅はおろか信号機すらない一介の辻に過ぎなかった。

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◆国道との交点より更なる高みを目指して駆け上がる

驚くべき事に当時は県道と国道が同一規格の極太二重線で描かれており、一時代前の県道372号線は、現国道筋と甲乙付け難い存在であった事を示唆する。その当時は互いが県道で、先に南北線が出世した点を差し引いても、山岳横断道路が現国道筋に比肩する重要路線であった点に驚きを禁じ得ない。

現代人にその事実をレクチャしたところで、全く腑に落ちないであろう事は百も承知で、僕は声を大にしてこう言いたい。この道も国道と言っても過言ではない幹線道路ですから〜!選挙戦を闘う無所属新人が街頭演説する際の人々の無反応に等しいリアクションが想像されるが、それでも何等構わない。

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◆広域農道と交わる信号機の無い五差路

重要なので、もう一度言おう。県道372号線は林道上がりの有名無実な最恐県道でもなければ、レクリエーション用に提供されるアドベンチャーコースでもない。現国道たる南北線に比肩する横断線として重きを置かれた、当地きっての最重要路線であったという事実を抜きに当路線は語れない。

確かに畑ヶ鳴峠から道の駅に至る過程は、四輪同士の離合が叶わぬ激狭道で、道路規格としてはとても褒められたものではない。しかしそれは進化の過程で取捨された結果であり、かつてこの道が果たした役割を否定されるものではない。この道は確かに県道の名に恥じぬ重要な責務を全うした。

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◆県道筋に現出する第五の峠には古風な石垣

どういう事かというと、中国地方には陰陽を結ぶ縦ラインの南北線は数あれど、横の繋がりである横断線は軽んじられる傾向にある。そのような中で横同士の繋がりを密にする期成会が発足する。それが中国横断国道計画で、個別に機能する複数の県道を広域で繋ぎ、国道へ昇格させようという野望である。

その壮大なる計画は、平成5年に日の目を見る。岡山県下の山間部を横断する初の国道が産声を上げる。備前から高梁に至る国道484号線がそれだ。この界隈で言えば福渡から畑ヶ鳴峠を経て、加茂より吉備高原を経由し賀陽に至る川伝いの路が、基軸となる主要横断線として確立されたのだ。

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◆微増ながらも年々拡幅延伸されつつある県道筋

その昔から個々に存在した県道を繋ぎ合わせただけの継ぎ接ぎ国道は、リニューアルオープンするでもなく地図上に赤線が敷かれる形で世に出る。その実態は今までと何等変わらぬ狭隘路で、道路標識がヘキサからおにぎりに変わっただけの事である。それでも乱立する県道を繋ぐよりは迷子になり難くなった。

それ以上に国道昇格への機運が盛んなのは、その後の大規模改修が見込める点にある。県の財政では災害でダメージを負った箇所の修繕が精々で、改良工事までは手が廻らない。それが国道となれば話は別だ。国家予算から経費が出るので、国道昇格の意義は計り知れない。

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◆アドベンチャーコースに比肩する現存する最後の狭隘区

狭隘路から幅広道への改良工事も、県道と比すればサクサクと進む。かくて県下横断道路の国道昇格を推進していた訳だが、そのルート選定に当り、鼻から現ルートが決まっていた訳ではない。どの路線もそうだが決定への過程で幾つかの候補が挙がり、調査を経て最善の道が決まる。

県下横断国道のルートを決める際も、例外なく数種の経路がテーブル上に並ぶ。その中に当然の如し現県道372号線、即ち畑ヶ鳴峠から道の駅に至るアドベンチャーコースが対象となっていた。その事実のみを切り取ればびっくりドンキーではあるが、よくよく考えてみれば全く以て驚くには値しない。

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◆県道372号線の終点である県道66号線との交点

何故なら先に述べたように県道372号線は、国道429号線に比肩する幹線道路であったからだ。単なる枝道や幹線を補完する路ではなく、古来より供用される歴とした主要横断線という確固たる地位を築く、重要路線として供用されていたからだ。

結論から言ってしまえば、吉備高原経由の現ルートに敗れ、行き交う者も疎らな過疎道と化している。しかし一時は国道のポストを巡る出世争いで、激しい鍔迫り合いを演じた強力な対抗馬であった点を、我々は見逃す訳にはいくまい。

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