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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>旧道>岡山>畑ヶ鳴峠 |
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畑ヶ鳴峠(22) ★★★ |
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畑ヶ鳴峠(はたごなるとうげ)の取扱説明書 世の中には地図に刷られている峠名と現地に掲げられている峠名がマッチングしない案件が存在する。国道484号線の畑ヶ鳴峠もその一つだ。ひとつの峠に複数の呼称があるのは然程珍しい訳ではない。峠の前後左右で名称が異なるのは何等不自然ではないし、どれが間違っていてどれが正しいとも言い切れない。世に出回っている地図の原本となる国土地理院の地形図は、2018年現在山の神峠と謳っている。その為市販の地図はそれに従い山の神と刷り込んである。現場は取るに足らない平易な峠で、未来永劫歴史の道踏査報告書で取り扱う日は来ないであろう、そう思い込んでいた、つい最近までは。ところが無視する訳にはいかない驚愕の事実に直面する。全ては知る人ぞ知る秘境カフェ「ナップビレッジ」に始まる。ここに立ち寄ったが最後、単なる峠越えに終始しないコアな世界へと引き摺り込まれていく。本来は酷道として名高い畑ヶ鳴峠であるが、その殻を打ち砕くに十分な破壊力を秘めている同区の真髄を御覧頂こう。 |
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◆峠の進行方向左手に現存するやや低めの石垣 なんて日だっ! すっかり小峠扱いされてしまった現畑ヶ鳴峠が雄叫びを上げるすれば、これ以外に言葉が見付からない。いきなり二軍扱いされてしまった選手にとっては寝耳に水である。 晴天の霹靂とはまさにこの事だ。但し畑ヶ鳴峠が更なる高みへのステップに過ぎない事は、九分九里の現代人が知らないであろうし、知っている者も年々淘汰されている。 |
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◆切り通しを抜けた直後のヘアピンカーブに案内板 そもそも畑ヶ鳴峠とこの峠の関係性を紐付けるのはかなりの難易度で、日本の道路に精通した者でもこの峠道が本線ではないかと疑念を抱くのは至難の業である。現にこの僕は古老の証言に加え、古地図のお墨付きがあった上でも、まだ本通り説を信じられずにいる。 何かが間違っている、或いはとんだ記憶違い、それらが偶然重なり合って誤認されているだけで、実は丁寧に紐解いていけば現国道とは縁もゆかりもない一介の山道でした!というオチがあるのではないかと本気で思っている。それは執筆中の今この瞬間でも変わらない。 |
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◆ガードレールの無い完全一車線の下りがしばらく続く ホンマかいな?事の顛末を知った上での僕の率直な感想がコレである。従って鼻からこの山道を疑うには相当な見識が必要で、常日頃からあらゆる可能性を排除しない広域且つ包括的大局観は必至、でなければ事実を事実として受け止められない僕と同じ目に遭うのがオチだ。 谷底より尾根へと上り詰め、稜線を跨いで別の谷へと滑り降りる、それが峠道のセオリーではあるが、全てがそうではないとこの山道は訴える。便宜上現国道の峠を畑ヶ鳴小峠、更なる高みにある県道の峠を畑ヶ鳴大峠と称して話を進めよう。大峠直後のヘアピンカーブより路は下りへと転じる。 |
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◆下り途中のヘアピンカーブより派生する支線林道 開けた視界に映るのは幾重にも連なる丘陵の如し低い山々、そして遥か彼方まで人の営みが感じられない寂しげな無人地帯が続く。沿道に人家でもあれば食料の煮炊きや野焼き等で、遠目に狼煙が上がっていたりするシーンは珍しくないが、ここにはそういったものを何一つ捉える事が出来ない。 時折野鳥が羽ばたく際の羽音が聞こえる程度で、基本的には無音状態が続く。まるで絵画の中にいるようで、無風であれば僕を除く万物は微動だにしない。定住者或いは林業従事者がいれば何等かの人工音がしそうなものだが、そういった類のノイズは僕の耳に一切届かない。 |
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◆見通しの良いスラロームが続くも待避所は皆無に等しい この静けさはけしてイレギュラーではない。一歩道なき道を分け入れば、人と遭遇する事自体が稀で、人工物と遭遇する機会は皆無に等しい。雑音の大方が自然由来のもので、人口音といったらハンターが野獣に放つ発砲音くらいのものか。だが登山道となると話は別である。 人と擦れ違うのは日常茶飯事で、案内板等の指南役はそこかしこにあり、人の往来が大前提の路は喧騒に満ちている。それが車道であれば尚更で、四六時中車両ないし徒歩移動があって然るべきで、どこかへと通じている道であるならば、往来の実態或いはその痕跡が無ければ嘘だ。 |
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◆車両交換は絶望的なガードレールが備わる断崖路 ところがだ、当山道には生活実態というものがまるで無い。非実用的と言ったら言い過ぎかも知れないが、当路線には生活臭といったものが一切感じられない。対向車も無ければ、僕を追い抜く者もいない。全く以て陸の孤島感が半端無く、ここでマシントラブルでも起きようものなら発狂ものである。 大方の車両にナビが搭載された現代は、客観的に自身の立ち位置が容易に把握出来るが、地図頼みのアナログ世代にとってこの状況は精神的にキツい。前からも後ろからも誰も来ない。寂しさは募るばかりで、ハイカーの一人でもいいから現れてくれ、そう願う僕の視界にヤバいものが飛び込んできた。 |
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◆四輪の通行を遮断する決定的場面を慎重に擦り抜ける 見てくれ、この宙吊り状態のガードレールを。前後の支柱に支えられ辛うじて踏み止まってはいるが、10m弱が宙に浮いていて足元の路盤がごっそりと持っていかれている。有効幅は1.5mを割っていて、通り抜けはミゼットでも厳しい。 一歩間違えば単車でも滑落するのではないか、ややオーバーハング気味に抉り取られた山道は、首の皮一枚でアスファルトが体を保っているに過ぎない。僕は何度も足元の様子を確かめ、素早くその場を切り抜けた。 畑ヶ鳴峠23へ進む 畑ヶ鳴峠21へ戻る |