教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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畑ヶ鳴峠(21)

★★★

畑ヶ鳴峠(はたごなるとうげ)の取扱説明書

世の中には地図に刷られている峠名と現地に掲げられている峠名がマッチングしない案件が存在する。国道484号線の畑ヶ鳴峠もその一つだ。ひとつの峠に複数の呼称があるのは然程珍しい訳ではない。峠の前後左右で名称が異なるのは何等不自然ではないし、どれが間違っていてどれが正しいとも言い切れない。世に出回っている地図の原本となる国土地理院の地形図は、2018年現在山の神峠と謳っている。その為市販の地図はそれに従い山の神と刷り込んである。現場は取るに足らない平易な峠で、未来永劫歴史の道踏査報告書で取り扱う日は来ないであろう、そう思い込んでいた、つい最近までは。ところが無視する訳にはいかない驚愕の事実に直面する。全ては知る人ぞ知る秘境カフェ「ナップビレッジ」に始まる。ここに立ち寄ったが最後、単なる峠越えに終始しないコアな世界へと引き摺り込まれていく。本来は酷道として名高い畑ヶ鳴峠であるが、その殻を打ち砕くに十分な破壊力を秘めている同区の真髄を御覧頂こう。

 

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◆下から見上げる勾配がきつい二つ目のヘアピンカーブ

峠を境に一目散に加茂市街地へと駆け下りる国道とは対照的に、初老が本線と言い切る山道は、グングンと更なる高みを目指して駆け上がる。一体全体どこまで上り詰めれば気が済むのか、植林杉の群生に視界の大部分を阻まれ、全くと言っていいほど先が読めない。

路の勾配は緩急を繰り返しながら確実に上昇を続ける。ヘアピンカーブの前後10mの落差が5mはあろうか、般ピーにとってはなかなか厳しい道程である。いつでもどこでも対向車が交わせる単車だからまだいいものの、軽トラで突っ込んだ暁には涙もののトリッキーなコースだ。

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◆コーナーの膨らみが対向車を避ける唯一の拠り所

残念ながらこの山道には待避所というものがほとんど認められない。唯一の拠り所としてヘアピンの膨らみが使えるが、それとて全幅の信頼を置けない路肩に寄せての離合がやっとで、軽クラスの擦れ違いならまだしも、普通車同士の交換となると相当神経を擦り減らしてのデンジャラスシーンとなろう。

このオアシスで偶然バッティングしたらラッキーな方で、そうでない完全一車線区間がほとんどであるから、確率的には狭隘区間で八合う羽目に遭い、どちらかが延々と後退を余儀なくされるのは必至だ。こういう非常時の為に馬の被り物は必携だ。対向車を発見したら直ちにアニマルマスクを装着する。

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◆古い石垣とコンクリの法面が混在するコーナーの内側

本来であればどっちが下がるのか一悶着ありそうな場面だが、対向車は一瞬でこいつヤバし!と認識し、ほぼ無条件にバックを開始する。唯でさえおっかなびっくりで走行する狭隘山道で、アニマル軽トラと対峙する恐怖たるや半端でない。大多数の常識人にとってはこの世の終わりに等しい。

一生に一度遭うか遭わないかの危険人物であるから、リスクを冒してまで自ら率先して関わろうなどとは考えない。兎にも角にもこの状況から逃れたい、一分一秒でも早く交わしたいと焦るのが普通だ。狭隘路に於けるアニマルマスクの常備は、危機管理上その有効性を認めない訳にはいかない。

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◆S字カーブを筆頭にカーブが連続し視界が利かない

その昔は当路線が本線であったと初老は主張するが、仮にそうであったとしても当時はどうやって対向車をやり過ごしていたのだろうか?ここに至る過程で二箇所のヘアピンを経ているが、四輪同士の擦れ違いはその二地点に限られ、その他は絶望的な状況にある。

今日現在この路線は一般県道となっていて、休日ともなればそれなりの通行があるものと思われ、一体全体彼等はどうやってやりくりしているのか非常に興味深い。車道幅が限られ物理的に交換が不可能であるから、延々と後退する悲劇が繰り返されてきたであろう事は容易に想像が付く。

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◆希少な直線区であるが残念ながら擦れ違いは出来ない

それは今に限った話ではなく、遥か以前から理不尽さを内包し、未来永劫続きそうな危うい路線は、安全な道に飽きた者達に対し甘く危険な香りを放つ。それを知ってか知らずか一部の者は興味本位で当山道に進入する。その蜜に吸い寄せられる者は後を絶たない。

マニアの間では県下でも指折りの狭隘剣道として知られ、御多聞に漏れずこの僕も酷道として二輪・四輪を問わず幾度かの踏破を試みている。普通の道に飽きた者が満足するに十分なポテンシャルを秘めているのは合点承知の助であるが、今は状況がまるで違っている。

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◆唐突に視界に飛び込んでくる美しいV字の切り通し

加茂市街地へ一旦降りる必要がない円城方面へのショートカット、或いは林道を格上げしたマニア向けの三桁県道という域では収まらない。何せ初老の証言のみならず、古地図までもが当山道をかつての本線と主張しているのである。酷道らしいトリッキーなコースではあるが、単純にそれだけではないようだ。

見てくれ、この掘割を。僕等が数多目にしてきたV字の割れ目、その道路脇には低いながらも人工的な石垣が組まれている。それは峠の切り通しにみるものと瓜二つで、現にこの堀切を境に路は下りに転じている。勿論ここまで登り勾配一辺倒であったのは言うまでもない。

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◆小規模ながら足元に人工的な石垣が認められるサミット

一見すると何の変哲もない小規模な掘割であるが、実際に踏破した者の実感としては、畑ヶ鳴峠よりも更に高度を稼いだ地点に唐突に現れるサミットであり、これを峠と呼ばずして何と言おうというくらい現場は峠然としている。

もしもこの山道が本線であるならば、標高が勝るこちらが真のサミットという事になる。畑ヶ鳴峠はあくまで通過点に過ぎず、この切り通しが最大の難所と見做すのが妥当だ。この時点で前後する峠が小峠⇔大峠の関係になるとの解釈が成り立つ。

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