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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>旧道>岡山>畑ヶ鳴峠 |
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畑ヶ鳴峠(12) ★★★ |
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畑ヶ鳴峠(はたごなるとうげ)の取扱説明書 世の中には地図に刷られている峠名と現地に掲げられている峠名がマッチングしない案件が存在する。国道484号線の畑ヶ鳴峠もその一つだ。ひとつの峠に複数の呼称があるのは然程珍しい訳ではない。峠の前後左右で名称が異なるのは何等不自然ではないし、どれが間違っていてどれが正しいとも言い切れない。世に出回っている地図の原本となる国土地理院の地形図は、2018年現在山の神峠と謳っている。その為市販の地図はそれに従い山の神と刷り込んである。現場は取るに足らない平易な峠で、未来永劫歴史の道踏査報告書で取り扱う日は来ないであろう、そう思い込んでいた、つい最近までは。ところが無視する訳にはいかない驚愕の事実に直面する。全ては知る人ぞ知る秘境カフェ「ナップビレッジ」に始まる。ここに立ち寄ったが最後、単なる峠越えに終始しないコアな世界へと引き摺り込まれていく。本来は酷道として名高い畑ヶ鳴峠であるが、その殻を打ち砕くに十分な破壊力を秘めている同区の真髄を御覧頂こう。 |
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◆鞍部に架橋された広域農道奥吉備街道の山の神橋 かつて畑ヶ鳴峠付近には小学校があった。この衝撃の事実を知らされなくとも、初見の者にとっての鞍部は、強烈に印象に残る稀有な形状をしている。頭上に覆い被さるようにして聳える橋桁は、我々の想像を遥かに超える力学が働いた事を示し、見上げる者を容赦なく圧倒する。 建設時には一体全体どれくらいのミキサー車が往来したであろうか?用途が分かっている我々でもスゲーな!と驚くくらいであるから、かつてこの地で暮らしていた住民にとっては、想像を絶する異物であるに違いない。この巨大建造物が片鱗を見せ始めたのは、昭和の終わり頃であるという。 |
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◆稜線を伝う農道は橋梁がボトムで左右共に跳ね上がる 橋梁の銘板には平成2年12月竣工とあるから、基礎工事は昭和の晩年より行われていたのだろう。廃村に等しい集落とは不釣り合いな快走路が頭上を横切るが、短橋梁は尾根を伝う二車線路同士を繋ぐ重要な役割を担っている。峠は稜線上で最も低い箇所に狙いを定めて掘り割る。 このセオリーに畑ヶ鳴峠も従っていて、尾根伝いの快走路は左右共にこの橋梁を起点に跳ね上がる。つまりこの付近は福渡と加茂を隔てる山塊の最も窪んだ箇所に位置する。そこは紛れもない峠である訳だが、昭和と平成の狭間に現れた巨大コンクリ塊が、年季の入った掘割の雰囲気をすっかり台無しにしている。 |
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◆山の神橋より望む福渡側の全景は掘割にて視野が狭い 引っ切り無しとまでは言わないが、快走路をぶっ飛ばす車両が後を絶たない。時折耳障りな爆音が山中に轟き、静寂を掻き乱す不協和音は違和感この上ない。せっかく都会の喧騒と隔絶された世界を堪能しに来ているのに、全く落ち着かないという残念な場所に成り果てている。 国道そのものに存在意義はほとんど感じられないが、広域農道との接続により福渡・建部⇔加茂のアクセスが格段に向上し、事実国道と農道を繋ぐ連絡路を行き来する車両が目立つ。高速走行で尾根伝いを飛ばして来た車両が国道へ降りるシーンは、まるで高速道路のインターチェンジの如しだ。 |
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◆畑ヶ鳴峠の直上を一跨ぎする橋梁は平成2年12月竣工 その逆も然りで平日の日中に限れば、国道をトレースする者や農道を直進する車両に比し、峠で右左折する車両が多いように見受けられる。この界隈には養鶏場や乗馬倶楽部があり、その関係者と思われる車両が結構な頻度で畑ヶ鳴インターを乗り降りしている。 夜間ともなれば一昔前のように静寂に支配されるのであろうが、白昼は意外と賑やかで土日祝は言わずもがな。それに拍車を掛けるのが秘境カフェナップビレッジで、倉敷帆布を用いた創作雑貨&カフェの人気は衰え知らずだ。それに輪を掛けるのが吉田牧場の存在だ。 |
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◆橋上より望む二車線幅でやや開けた加茂側の全景 東京で腕を揮う一流シェフがこぞって利用する極上のチーズを求め、県の内外を問わず客が殺到する家族経営の小規模牧場は、畑ヶ鳴峠から5分と掛からない広域農道沿いにある。これをお目当てに大挙して車が押し寄せ、午前中には売店のショーケースが空っぽという人気を博す。 知名度もないその昔は、国道経由の狭隘路をのらりくらり伝っての過酷な出荷作業を強いられたであろうが、今は黙っていても遠方から客の方が足を運んでくれるし、大方はネット注文で配送は宅配業者任せであるから、大規模農道の全通と相俟って随分と経営は楽になったのではないか。 |
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◆加茂側の下りに転じて間もなく迎える三桁県道との交点 ナップビレッジに吉田牧場に岡山乗馬倶楽部、畑ヶ鳴峠周辺だけで一日満喫出来そうで、かつては僻地であった場所の秘境度は格段に低下している。相対的に雲上の分校が謎の古代遺跡扱いになる勢いで、近未来では峠付近が加茂のマチュピチュと呼ばれているかも知れない。 頂上の掘割は素掘りのままで二車線幅を有す。今日現在擁壁を要しないという事は、古来崩れ難い地質にあるのだろう。一部は岩盤らしきゴツゴツとした面が露出していて、軟弱地盤でない事だけは素人目にも分かる。従って切り通しに石垣の痕跡が見当たらないのも頷ける。 |
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◆県道372号線との交点より先は見通しの良い快走路 R484は鞍部を境に状況が一変する。ブレーキペダルを踏むのが勿体無い快走路は、規格的に広域農道と何等遜色ない。加茂側は農道と連動させているのは間違いなく、ドライバーは違和感なく行き来出来る。 そこに酷道らしさは微塵も感じられず、福渡側のドキドキ感や悲壮感はまるで無い。ジェットコースターの如し加茂市街地へと滑り降りる緩勾配の坂道は、福渡側の狭隘路を掻き消して尚お釣りが来るほど装いも新たに、その姿には感動すら覚える。 畑ヶ鳴峠13へ進む 畑ヶ鳴峠11へ戻る |