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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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畑ヶ鳴峠(9) ★★★ |
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畑ヶ鳴峠(はたごなるとうげ)の取扱説明書 世の中には地図に刷られている峠名と現地に掲げられている峠名がマッチングしない案件が存在する。国道484号線の畑ヶ鳴峠もその一つだ。ひとつの峠に複数の呼称があるのは然程珍しい訳ではない。峠の前後左右で名称が異なるのは何等不自然ではないし、どれが間違っていてどれが正しいとも言い切れない。世に出回っている地図の原本となる国土地理院の地形図は、2018年現在山の神峠と謳っている。その為市販の地図はそれに従い山の神と刷り込んである。現場は取るに足らない平易な峠で、未来永劫歴史の道踏査報告書で取り扱う日は来ないであろう、そう思い込んでいた、つい最近までは。ところが無視する訳にはいかない驚愕の事実に直面する。全ては知る人ぞ知る秘境カフェ「ナップビレッジ」に始まる。ここに立ち寄ったが最後、単なる峠越えに終始しないコアな世界へと引き摺り込まれていく。本来は酷道として名高い畑ヶ鳴峠であるが、その殻を打ち砕くに十分な破壊力を秘めている同区の真髄を御覧頂こう。 |
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◆市町界付近から枝分かれする舗装済の真っ当な支線 標識オンパレードの市町界を跨ぐと、視界は一気に開ける。鬱蒼とした雑木林を抜けた現場は、解放感に溢れ実に爽快だ。但し辺りに人の気配は全く感じられない。荒れた野原が広がるばかりで、耕作放棄地からは物悲しさが伝わってくる。ただ裏を返せばかつてそこに人の営みがあったという事だ。 ここに至る全ての画像に人家は映っていない。それどころか沿線では廃墟のひとつも確認出来ない。そもそも谷底を這うようにして進む当路線に取り着く島など無い。従って人家やその痕跡が見当たらないのは当然で、ようやく開けたこの場所が、最終集落以来の真っ当な居住候補地とみて間違いない。 |
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◆支線との分岐点に掲げられた畑ヶ鳴と刷られた案内板 かなり奥深い所までやってきた感があるが、ここに辿り着いた先人達も同じ気持ちではなかったか。いや、当時はまともな車道すら皆無であったろうから、手探りで藪を掻き分け獣道に等しい小径を伝い遡上する、その苦労たるや我々の想像を絶するものがあったのではないか。 平家落人伝説の残る土地は往々にして普通では考えられない奥地で、最終集落とも接点が見出せない秘奥の部落は、完全に世間一般とは隔絶している。そのどれもがほぼ例外なく秘境度がズバ抜けていて、数kmに亘り人家が途絶する山上の集落は、まさにドの付く秘境である。 |
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◆畑ヶ鳴集落へと続く支線の先に待つ唯一の人家 ここに近代的なコンクリート製の廃墟等の土木遺構でもあればミステリー度は増すが、残念ながら確認出来るのは至って普通の純和風の木造家屋のみである。但し集落の入口には大いにそそられる地名標が佇んでいた。 畑ヶ鳴 畑ヶ鳴?それって峠名にも冠されるあの畑ヶ鳴の事か!だとすればこの辺一帯が峠に最も近い直近の集落、即ち峠下という事になる。建部側の無人エリア内に於ける唯一にして無二の有人集落、それが畑ヶ鳴集落だ。 |
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◆畑ヶ鳴集落へ通じる分岐点を起点とする未舗装林道 だが幸か不幸かまともな家は僅か一軒しか確認出来ない。それも主が居るのか単なる空き家なのか判然としない。兎にも角にもまともに人が住めそうな家はパッと見一軒に限られ、その他は既に倒壊しているか藪に埋もれているかのどちらかで、聞き取りをしようにも出来ないもどかしさがある。 田畑は手入れをしなくなって久しく、荒れるに任せた残念な光景が広がる。沿線ではとても明るく開けた貴重な土地なのに、雑草が猛威を振るい猪のヌタ場と化している廃田は見るに堪えない。廃屋の数からしてかつての畑ヶ鳴集落は、最低でも五軒以上から成っていたものと察せられる。 |
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◆畑ヶ鳴集落より先は幅員が一段と狭くなり迎える最狭区 しかし現存する真っ当な人家は僅かに一軒を数えるのみ、しかも高齢につき下界に降りてしまった可能性がある。加速度的に消滅集落が増す状況下で、仮に今日現在ポツンと一軒家状態を保っていたとしても、早晩ここ畑ヶ鳴も無人になるのは必至で、集落の予後に暗雲が漂っている。 ところがだ、このような僻地に今更ながら居を構えんとする奇特な者がいるのだ。しかも閑古鳥が鳴く酷道の交通量を劇的に改善する起爆剤となっているから恐れ入る。それこそが畑ヶ鳴集落の先に待つお洒落なカフェ「ナップビレッジ」で、何も無い樹林地帯に忽然と現れる異空間に誰もが無条件に驚嘆する。 |
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◆最狭区の先に唐突に姿を現す人気カフェナップビレッジ 建部から誘導する案内板でも連なれば話は別だが、そういった類の看板は一切設置されてはいない。ウェブで事前に情報を得ている、または口コミ等ナップビレッジ目的で来訪した者以外で、まともな人家すら見当たらない期待値ゼロの山奥にて、突如目の前に出現する飲食店に驚かない方がどうかしている。 しかも内外装共にお洒落な建物に驚愕したのも束の間、出される料理は女子が泣いて喜びそうなメニューとあって、週末は駐車場が満車という酷道にあるまじきトンデモナイ事態に陥っている。いつ何時川に落ちるか知れないスリリングな道程や、唐突に現れる対向車に怯えながらのヤバいコースなのにだ。 |
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◆閑散とする深山の酷道に似つかわしくないお洒落な看板 嗚呼それなのに、ここでは極々普通の人達が、至極一般的な車に乗って、何事も無かったかのようにお洒落なカフェで、心地良い一時を過ごしている。アマゾンの奥地でジャングルを彷徨っていたら、小奇麗なペンションを発見!的な違和感がある。 東スポの一面を飾れそうなこのギャップを埋め、尚且つ平静を保つのは容易でない。ただ自身を落ち着かせる手段が無い訳ではなかった。それがここに至る経路が、単なる市町村でも旧道でも廃道でもなく、正真正銘の現役国道という事実である。 畑ヶ鳴峠10へ進む 畑ヶ鳴峠8へ戻る |