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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>北海道>静狩峠 |
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静狩峠(18) ★★★★ |
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静狩峠(しずかりとうげ)の取扱説明書 その昔、猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられた礼文華山道。その行程は長万部から豊浦にかけての気が遠くなる程の長大山道で、一般には筆頭格と目される礼文華峠のみが取り沙汰されるが、礼文華山道とは大小連なる複数の峠の総称であり、その全体像を掴むには個々の峠を丁寧に精査するしかない。それぞれが距離も高低差も難易度も異なる多様性に富む峠越えの中で、僕が本気で死を意識し一枚の写真も収められなかった峠がある。それが静狩峠だ。読んで字の如しサイレントハンターはトラップに嵌まり衰弱する僕を静かに見守っていた。夕刻迫る発狂寸前の渦中でふと我に返った僕は、間髪入れずに敵前逃亡を図る。あれから十余年が経ち機は熟した。あの日あの時あの瞬間の忌まわしい借りを返すと同時に、返す刀で礼文華山道の全貌を白日の下に晒す。 |
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◆大障害を克服した直後の広場にてしばしへたり込む 天下泰平の眠りから覚めるとはまさにこの事だ。僕は油断していた、静狩峠の踏破は楽勝なのではないかと。道中にはたいした障害もなく、手を煩わせるような場面はほとんど見られなかった。このまますんなり静狩市街地へと抜け出られるのでは?密かにそう思っていた。 しかし現実はそれほど甘くはない。突如目の前に現れた絶望的とも言える光景に僕は酷く打ち震えた。恐怖に慄いたのは目の前の段差だけではない。この先に待つかも知れない幾つもの試練が脳裏を過ったからだ。踏破不能さえ有り得る波乱含みの負の連鎖に僕は恐怖した。 |
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◆広場から先はこれまで以上に怪しい雲行きの道程 頼むからこれで終わってくれ。僕はたった一箇所の崩壊現場を乗り越えれば先が見えるという都合の良い願いを神に祈った。しかし事はそう簡単には収まらない。どうにかこうにか崩壊現場を切り抜けたはいいが、どう見てもその先の状態が芳しくない。路の荒れ具合が半端ではないのだ。 つい今しがたは対向からいつ軽トラが現れても不思議でない小春日和の道程であった。しかし今は違う。オフロードバイクでさえそう簡単には入って来られないのでは?と危惧するほどの悪路が延々と続いている。藪密度は増し気味で前方の様子は判然とせず、足元は田んぼと見間違う程に酷く抜かるんでいる。 |
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◆泥濘の足元には湿性植物の群生が湿地帯を形成 そのような悪路を好き好んでチョイスするような輩はそうそういない。当然の事ながら足元を見てもタイヤ痕ひとつ見当たらない。ってか靴跡さえ確認出来ない。仮に人の行き来が無いとなると、この先には致命的な障害が待ち受けているという解釈が成り立つ。人をも寄せ付けない決定的な何かが待っている。 峠から距離的にはかなり進んでいるし、稜線が拝めない谷間に居るから高低差もかなりのものだ。谷向かいには人工的な法面を捉えているし、ゴールが近いのは確かだ。ここまで来たのだから戻りたくはない。ってか1.5mの段差で単車を引きずり落としたから、物理的にリターンはほぼ絶望的である。 |
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◆執拗に続く泥田のような悪路が次なる障害を予感させる ぐっちゃぐちゃの泥田と化した足元が恐怖を二割増しにする。例え電波が通じようとも、こげな状態ではサービス圏外とJAFにも見捨てられるだろう。山襞を蛇行するトラバースのコーナー毎に、巨石が路を塞いでいる等の大障害が待ち構えているのではないかとドキッとする。 ゴールは確実に近付いている。しかし吐き気を催すトリッキーな状態は止まる事を知らない。先程まではほとんど見られなかったヘルメット大の石がそこかしこに散乱し、草に塗れ見逃した石にヒットする事数知れず、その都度転倒し激痛と共に心が折れそうになる。 |
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◆かつての轍が雨水の受け皿となり路面を削り込んでいる ふと足元を見ると一条の轍が!と思ったら轍跡を削り込んだ沢筋で、雨水が砂地を洗い流してしまって久しく、河原の如し小石が剥き出しとなっている。これは昨日今日に出来たものではなく、もう何年もこの状態が続いている事を示唆する。この道は道路でもあるが、時に川でもあるのだ。 路面全体が酷く湿っている要因、それは本来谷底へ落ちるべき雨水が路上を伝い、所々に湿地帯を形成している事にある。現役時は機能していた排水処理が滞り、行き場を失った雨水は容赦なく道路へと雪崩込み、以後轍跡が受け皿となり谷底に第二の沢が出来上がった。 |
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◆一瞬上昇に転じた地点で乾いた路面へと切り替わる ぶっちゃぶちゃの湿地帯には湿性植物が根付き、通常の藪とは異なる緑の楽園と化している。国道云々を問う前に道路か否かも定かでない怪しい道程が続く。下手こくと1m先の様子も判然としない先の見えない状態に、発狂しそうになると同時に体調不良にて具合が悪くなる。 このような状態に何度陥った事だろう。恐ろしい、でもこの先に待つまだ見ぬ光景をしかとこの眼で拝みたい。その一心で過去を反省し顧みる事なく突撃を繰り返してきた。神様ごめんくさい、もう過ちは繰り返しません、これが最後です、どうか許して下さい。いつもそうやってその場凌ぎの反省は欠かさない。 |
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◆久しく目の前に現れた浅藪と共に状況は一変する しかし完踏した暁にはそんな弱気発言などどこへやら、次ぎはどいつや、かかって来んかい!とビッグマウス全開で全く懲りやしない。この時もそうだった。足元が乾くと路面状況も大幅に改善し、安定した浅藪道はゴール近しを予感させる。 結論から言うと現時点で静狩峠に手を煩わすような大障害は一箇所しかない。そこさえ乗り越えれば峠道の克服は叶う。神は乗り越えられる試練しか与えない。今日からまた元気よくペニスリンを打ちまくるゼぇっと! 静狩峠19へ進む 静狩峠17へ戻る |