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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>北海道>静狩峠 |
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静狩峠(13) ★★★★ |
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静狩峠(しずかりとうげ)の取扱説明書 その昔、猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられた礼文華山道。その行程は長万部から豊浦にかけての気が遠くなる程の長大山道で、一般には筆頭格と目される礼文華峠のみが取り沙汰されるが、礼文華山道とは大小連なる複数の峠の総称であり、その全体像を掴むには個々の峠を丁寧に精査するしかない。それぞれが距離も高低差も難易度も異なる多様性に富む峠越えの中で、僕が本気で死を意識し一枚の写真も収められなかった峠がある。それが静狩峠だ。読んで字の如しサイレントハンターはトラップに嵌まり衰弱する僕を静かに見守っていた。夕刻迫る発狂寸前の渦中でふと我に返った僕は、間髪入れずに敵前逃亡を図る。あれから十余年が経ち機は熟した。あの日あの時あの瞬間の忌まわしい借りを返すと同時に、返す刀で礼文華山道の全貌を白日の下に晒す。 |
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◆辛うじて首が浮かぶ丈が150cm前後の藪海が続く 元ヤクザを肩書に一世を風靡した安部氏も、何だかんだ言って作家の端くれである。渡道し札幌入りした氏は道立図書館に入り浸り、有りっ丈の史料に目を通すのは勿論の事、関係各所の郷土史家を訪ね教えを請うている。また北見入りした氏は入念な聞き取り調査をも実施している。 そこで氏は想定外の驚くべき現実に直面する。なんと囚人の末裔と思わしき人物に全く辿り着かないのである。ただの一人もだ。千名超に及ぶ囚人の約二割が非業な最期を遂げた。ざっくりとした計算でも八百余名の生存者がいるはず。それだけいれば誰かしらの末裔に辿り着くであろうと僕も考える。 |
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◆獣道程度は拓かないと遭難したも同然の深々とした樹海 しかし現実として安部氏が囚人の末裔に辿り着く事はなかった。生き残った800名超の囚人が全てホモ達だったとか、去勢され余生はススキノのオカマバーでオネエとしてひっそりと暮らしたとでも言うのだろうか?馬鹿な、強姦罪なら兎も角、集治監囚は人殺しも躊躇わない極悪集団である。 確かに去勢すれば少しは大人しくなるのかも知れないが、千人弱に及ぶ去勢手術は半端ではない。ベルトコンベアー式に朝から晩まで1日10人オペしても、無休暇で三か月超を要する長丁場である。もし仮に執刀医がたった一人の医師であるならば、日本医学史に残る金字塔であるのは間違いない。 |
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◆西側の道中は致命的な倒木の類が少ないのが救い それが事実なら執刀医は伝説のオネエ製造機として語り継がれているであろうし、囚人道路を遥かに凌ぐ話題性に般ピーの喰い付きも良く、映像化すれば間違いなく数字が取れるのは一括大量去勢事件であろう。しかし物理的にも技術的にもそれは困難であろうし、倫理道徳的にも非現実的と言わざるを得ない。 では八百余名の予後はどうなったのであろうか?これは極めて不良と考えざるを得ない。約一年に及ぶ長期に亘り非人道的な扱いを受けた者達が、方々に散らばったとしたらどうなるかを想像してみるといい。恐らく彼等は北の大地でこんな酷い仕打ちを受けたと、あちらこちらで不都合な真実を拡散するだろう。 |
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◆礼文華峠と違って静狩峠は完全に見捨てられている 時の政権にとってそれは極めてナーバスな案件である。一人二人の情報漏洩程度ならまだしも、それが全国津々浦々で展開され集団訴訟にでも発展したら大問題だ。田中正造の耳に届いた日には政権が吹っ飛びかねない。果たして証人喚問や百条委員会に しかし政府を筆頭とする関係者が危惧する事案は杞憂に終わる。何故なら連鎖の糸は完全に途切れているからだ。中央道路建設に携わった集治監囚のDNAは、残念ながらどこにも引き継がれてはいない。彼等は彼等の代で命脈が尽きている。それも余命は数年と極めて短い。 |
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◆久しく現れた浅藪区のオアシスでしばし休憩し息を整える 過酷な労働環境下で中央道路を切り拓いた彼等は、多かれ少なかれ精神的にも肉体的にもダメージを負っている。医療技術が未発達な時代であるから運良く生き残ったとしても、適切な処置をしたところで助からない者もいただろう。しかし鋼のような強靭な肉体を武器に苦行に耐え抜いた者達もいるはず。 個体差があるので全員が全員すこぶる健康とは言わない。しかしいつ何時社会復帰しても不思議でない者が数百名規模で存在したのは確かだ。ただ彼等が子孫を残すのは勿論、未来永劫シャバに出る事は許されなかった。それどころか彼等には十分な余生すら与えられなかった。政府が下した決断、それは |
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◆道跡が鮮明に残るハイキングコースの如し良質な浅藪 道路建設に携わった囚人の殲滅 中央道路建設に携わった者達は全員皆殺しで、一人残らず処刑の憂き目に遭った。口封じ、これが安部氏が結論付けた囚人道路のショッキングな結末である。どうやっても囚人の末裔に辿り着けない氏が導いた結論は、我が目を疑うものであった。 少々飛躍し過ぎた見解のようにも思われるが、千人程度の処分は世界的規模で大量殺戮の今昔を俯瞰した時、ほんの些細な出来事でしかない事に気付く。ナチスドイツのホロコースト、広島・長崎への原爆投下、ポルポトのクメールルージュ。 |
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◆いつ何時オート三輪が現れても違和感がない直線路 拾い上げたらキリがない。リアルタイムでは北朝鮮の血族を問わない非道な粛清が、今この瞬間も履行されているという現実がある。数々の歴史的事件に比すれば北の大地の囚人に下された処遇は、数多ある悲惨な事件のひとつでしかない。 数万、数十万、数百万規模の大量殺戮は枚挙に暇がない。中には一千万という東京都民に匹敵する大規模大量殺戮さえ過去には存在する。そこから類推すると安部氏が主張する死の旋律は、所詮小鳥の囀り程度なのかも知れない。 静狩峠14へ進む 静狩峠12へ戻る |