|
教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
|
|
トップ>廃道>北海道>静狩峠 |
|
|
静狩峠(11) ★★★★ |
|
|
静狩峠(しずかりとうげ)の取扱説明書 その昔、猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられた礼文華山道。その行程は長万部から豊浦にかけての気が遠くなる程の長大山道で、一般には筆頭格と目される礼文華峠のみが取り沙汰されるが、礼文華山道とは大小連なる複数の峠の総称であり、その全体像を掴むには個々の峠を丁寧に精査するしかない。それぞれが距離も高低差も難易度も異なる多様性に富む峠越えの中で、僕が本気で死を意識し一枚の写真も収められなかった峠がある。それが静狩峠だ。読んで字の如しサイレントハンターはトラップに嵌まり衰弱する僕を静かに見守っていた。夕刻迫る発狂寸前の渦中でふと我に返った僕は、間髪入れずに敵前逃亡を図る。あれから十余年が経ち機は熟した。あの日あの時あの瞬間の忌まわしい借りを返すと同時に、返す刀で礼文華山道の全貌を白日の下に晒す。 |
|
|
|
◆前後左右から何が現れても驚けない緑の楽園 中央道路の常軌を逸したスピード開削、あれは大日本帝国の行く末を占う意味で、極めて重要な意味を持っていた。鎖国を解いて間もない我が国が欧米列強に肩を並べるには、並々ならぬ努力は勿論の事、欧米人が思いも付かない大掛かりな仕掛けが必要であった。 そこで何を血迷ったか我が国が打ち立てた戦略は、辛抱強く頑張っていればいつか報われる根性論、所謂ド根性作戦で乗り切ろうと画策する。そのような精神論で賄い切れない部分を、不眠不休で補填する二段仕込みの二段熟カレー仕様は、昭和20年の大日本帝国瓦解まで続く事になる。 |
|
|
◆元一級国道とは思えない惨状がどこまでも果てしなく続く 寝る時間を惜しんで業務に邁進するとか、休日返上で仕事をすれば単純に生産性は向上する。白昼堂々数時間も爆睡するシエスタが常識の民族や、バカンスと称し二週間〜一ヶ月もの長期休暇を謳歌する民族に比すれば、そりゃ結構な勢いで我が国のGDPも上向きまさぁねぇ。 戦後アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国に伸し上がったのも偶然ではなく、見方によっては勤勉な日本人が成し得るべくして成し得た必然という解釈も出来なくはない。世界の奇跡と謳われた戦後日本の急激な発展は、軍国主義に邁進したそれまでの環境と180度異なる方針転換の上に成り立っている。 |
|
|
◆辛うじて路面を捉えられるのも事前に刈り払ったから 我が国の本土が他国に占領される悪夢など是が非でも回避せねばならないし、そのような屈辱の非常事態は未来永劫あってはならない。欧米列強の植民地化を最も恐れた明治国家は、軍備増強を図り力による対抗策を強めると同時に、個々のポテンシャルを最大限引き出すド根性作戦を遂行する。 北の大地で秘密裏に履行された中央道路の建設は、表向きは対露本土防衛並びに北海道開発の要とされているが、大陸に新国家を樹立した際のインフラ整備を見越した壮大な実験の可能性を指摘しておきたい。不凍港を求め南下政策を推進するロシアの脅威は待った無しの状況にあった。 |
|
|
◆このように獣道レベルにしか拓けない箇所もある 既に満州を勢力下に治め大韓帝国への進出を目論んでいたロシアに、日本側は最後の最後まで権益拡大への自制を求めるべく交渉を重ねた。妥協案として満州をロシアの支配下に置く事を容認し、その代わり大韓帝国への侵害は犯さない事を約束させる譲歩案であったが、ガン無視される。 日露の軍事力は如何ともし難い乖離があり、日本必敗が下馬評では戦費の調達もままならず、国内では戦争回避論が圧倒していた。しかしこのまま黙っていれば朝鮮半島全体がロシアの支配下に置かれる安全保障上の脅威は看過出来ず、結局世論は開戦已む無しへと傾倒する。 |
|
|
◆植物図鑑を片手に散策したくなる緑の回廊が続く 戦争に負けはしないが一時的に国力は低下するロシアに対し、軍事力の差で戦争に負ける可能性が十分にあり、借金大魔王と化した貧困国の上に、朝鮮半島の権益まで失うリスクのあった日本では、背負うものも違えばこの一戦に賭する思いも並々ならぬものがあった。 先の日清戦争で凍傷による負傷者が多数出た事から、寒冷地での戦闘を想定した大規模な軍事演習が展開され、その際山岳事故史上類を見ない事件が発生する。そう、日露開戦の2年前に起こった八甲田雪中行軍遭難事件である。それは参加者210名中実に199名が死亡するという大惨事であった。 |
|
|
◆大部分の箇所は単車一台分の隙間確保で精一杯 生存者11名の生々しい証言から、猛吹雪の渦中で追い詰められた者達が次々と発狂する阿鼻叫喚の様は、高倉健主演の映画「八甲田山」でリアルに再現されているが、その作品で描かれていないものとして僕が注目するのは、いまだ山中を彷徨い続けていると噂される英霊達の動向である。 事件後軍服を纏った一行が夜な夜な行軍しているという噂が広まる。その噂が聯隊の耳に届き隊長自らが現場に急行したところ、闇夜の山中からザッザッザッと複数の人間の靴音と共に、軍歌及びラッパの警笛らしき音まで捉えたという。その姿を現わさんとしたまさにその時、隊長は抜刀し闇に向って叫んだ。 |
|
|
◆ミゼットクラスが往来可の空間が確保された貴重な区間 雪中行軍隊の諸君よ、よっく聞け!お前達は勇戦奮闘して見事な最期を遂げた!今や無情雪裡の鬼と化すとも迷ってはならぬ!お前達の死は無駄ではなかった!軍装及び厳寒期の戦術には一大改革が施される事になったぞ!来たるべき戦役に於いて未然に軍の損失を防いだその功績は大きい!行軍隊員はみな靖國神社に合祀される事になったのだ!迷うな、心安く眠れ!ここはお前達の来る所ではない!帝国軍人として見苦しい振る舞いはこの聯隊長が許さんっ!青森五聯隊の雪中行軍隊、回れ右!前へ進め! 静狩峠12へ進む 静狩峠10へ戻る |