教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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静狩峠(5)

★★★★

静狩峠(しずかりとうげ)の取扱説明書

その昔、猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられた礼文華山道。その行程は長万部から豊浦にかけての気が遠くなる程の長大山道で、一般には筆頭格と目される礼文華峠のみが取り沙汰されるが、礼文華山道とは大小連なる複数の峠の総称であり、その全体像を掴むには個々の峠を丁寧に精査するしかない。それぞれが距離も高低差も難易度も異なる多様性に富む峠越えの中で、僕が本気で死を意識し一枚の写真も収められなかった峠がある。それが静狩峠だ。読んで字の如しサイレントハンターはトラップに嵌まり衰弱する僕を静かに見守っていた。夕刻迫る発狂寸前の渦中でふと我に返った僕は、間髪入れずに敵前逃亡を図る。あれから十余年が経ち機は熟した。あの日あの時あの瞬間の忌まわしい借りを返すと同時に、返す刀で礼文華山道の全貌を白日の下に晒す。

 

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◆見通しの利かないカーブも道幅には十分な余裕がある

当山道の正体がはっきりとした今となっても、正直これがかつての幹線なのか?と疑わずにはいられない自分がいる。ビジュアル的には何度見ても信じ難い光景が僕の視界に映り込み、確定後も疑念を抱かずにはいられない。その感覚は今後何度見ても変わらない不変のものだ。

林業目的でゼロベースで開削された一般林道というのであれば溜飲も下がるが、実態がそうでないのだからギャップを埋めるにはそれ相応の時間を要するし、一生かかっても消化不良が解消されないのではないかと危惧する自分がいる。それもこれも峠の東西で天と地ほどの差が生じているからだ。

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◆静狩峠東側では見通しの利く貴重な直線区間

ハイキングコース宜しくこの小春日和の道程がいつまでも続くのならば、応分の納得はするだろう。ある程度整備が行き届いた礼文華山道の如しだ。今も辛うじて車両の通行を許す、それは過去の山道が今以上の整備状況にあり、そこから一定の交通量があった当時の様子を想像するのは容易い。

しかし峠道が廃道含みとなると話は別だ。この峠に挑むほとんど全ての民が頂きに立つ事は叶う。雪解け時期とか長雨の直後や倒木が行く手を遮る等の余程の悪条件でない限り、一般車でも余裕のよっちゃんで頂上に到達出来る。それくらい峠の東側は良好なコンディションを保っている。

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◆藪に没しかけた元待避所らしき膨らみを捉える

目を瞑っていても到達可能とまでは言わないが、車種やテクニック云々は問わない。問題は峠の向こう側にある。キツネや蝦夷鹿が飛び出してきただけでビビる余程のチキンでない限り、頂上に轍を刻むのはほぼ約束されている。そこだけを言えば礼文華峠と寸分と違わない。

到達距離は静狩峠の方が圧倒的に短く、飛ばせば5分、のんびり行っても僅か10分の道程だ。基本的には通り抜けが叶わないので対向車の心配は不要である。仮に道中で対向車と擦れ違ったら奇跡と言っても過言ではなく、常時貸切状態と思ってほぼ間違いない。

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◆短いピッチでコーナーが連続するも見通しは悪くない

平日の白昼であれば一人占め出来る訳だが、裏を返せば誰も助けてはくれないという事。それは長大林道を散策する者の常識であるが、いつ何時車両トラブルが発生するかは分からないし、脱輪したら自力での脱出が困難な場合も有り得る。幸い峠の東側は開けていて電波も通じる。

何よりトラブった場合在来国道が至近距離にあるから、応援も呼ぶのもそれほど苦労しないとい利点がある。このような僻地では大なり小なりリスクが生じるが、それ込みでも当路線の難易度は低く、礼文華山道全体で俯瞰してみれば到達し易さで大岸峠といい勝負であろう。

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◆カラマツの群生地を突き抜ける気持ちの良い山道

大岸峠は大岸市街地から東進すれば、在来国道の分岐から10分と経ずに頂きに立てる。整備状況はここ静狩峠と何等遜色なく、単なる峠目的であれば普通乗用車で事足りる。鼻から車道が通じていないチャシ峠を含めても、礼文華山道の全体像を掴むのはそれほど難しい話ではない。

大岸・チャシ・礼文華・静狩と一日あれば礼文華山道全ての頂上に自身の轍を刻み込める。かつて蝦夷三大難所と恐れられた仰天コースも、踏破に拘らなければたった一日で完全制覇が叶う。但しその全てが峠の片側を折り返すタッチ&ゴーの繰り返しという悲しい現実は否めない。

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◆再び待避所らしき膨らみを左手に捉える

しかし峠道全体が有耶無耶となる悲運の路線が数多存在する中で、片側だけでも生き残った、それも礼文華山道という北海道でも類を見ない長大山道の一部が、普通乗用車で到達可能という奇跡に感動を覚えずにはいられない。礼文華峠は観光資源として生き永らえ、チャシ峠は史蹟として保護された。

大岸峠と静狩峠は共に林業目的で峠の片側のみアクセス路として存続し、結果長大山道を点で見据えた場合全てのターゲットを捉えられる好機に恵まれる。どれか一つでも放棄されていれば峠の完全制覇は至難の業で、更に上の全線踏破は絶望的であったかも知れない。

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◆ほぼどの辺りでも在来国道の走行音をキャッチする

しかし幸か不幸か峠の完全制覇は約束され、完全踏破のチャンスの扉は開かれている。徒歩による縦走の更に上を行く単車による全線踏破、これを履行するまたとないチャンスをものにしない訳にはいかない。

大岸峠⇒チャシ峠⇒礼文華峠と駒を進めてきて、ここで諦めるという選択肢があるはずがない。静狩峠の頂上で皆さんさようなり〜テテテ・テテテ♪なんてシナリオはあってはならない。ここまで来たら何が何でも行き切らねばなるまい。

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