教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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静狩峠(4)

★★★★

静狩峠(しずかりとうげ)の取扱説明書

その昔、猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられた礼文華山道。その行程は長万部から豊浦にかけての気が遠くなる程の長大山道で、一般には筆頭格と目される礼文華峠のみが取り沙汰されるが、礼文華山道とは大小連なる複数の峠の総称であり、その全体像を掴むには個々の峠を丁寧に精査するしかない。それぞれが距離も高低差も難易度も異なる多様性に富む峠越えの中で、僕が本気で死を意識し一枚の写真も収められなかった峠がある。それが静狩峠だ。読んで字の如しサイレントハンターはトラップに嵌まり衰弱する僕を静かに見守っていた。夕刻迫る発狂寸前の渦中でふと我に返った僕は、間髪入れずに敵前逃亡を図る。あれから十余年が経ち機は熟した。あの日あの時あの瞬間の忌まわしい借りを返すと同時に、返す刀で礼文華山道の全貌を白日の下に晒す。

 

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◆低山の中腹を這う山道の頭上は常に開けて開放的

旧道の起点は思いっきり道道266号線との交点に重なる。その昔の線形はもう少し複雑なものであったと思われるが、改修された現在は十字路というシンプルな形状に改められている。青看には接続する道道線が刷られているだけで、当然の事ながら旧道のアナウンスは成されていない。

十字と言っても建物の裏手に隠れるようにしてひっそりと存在する旧道を、事前情報無しの一見さんが辿り着くのは難儀で、行き当たりばったりで簡単に見つけ出せるような物件ではない。但し一度進入口を覚えてしまうと、例え藪に没していても旧道筋への取り付きは容易だ。

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◆直線区間は稀だが見通しは総じて悪くない

しかも滑り出しこそすぐに行き止まるような支線林道を装っておきながら、あれよあれよという間に稜線上へと導かれる山岳路には、部外者を排除するゲートが存在しないのは勿論、招かれざる客を牽制するような文言が刷られた警告等も見当たらず、二輪四輪を問わず非常に魅力的な林道に映る。

まるでロードローラーで転圧されたかの如し硬質な路面は、毎年継ぎ足す砂利を行き交う車両が踏んだものに過ぎないが、路盤の出来が一般林道と一線を画す仕込みのせいか、無茶苦茶走り易くドライバーに快適な走行を約束する。これが旧国道の成せる業なのであろうか?

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◆元国道だけあって全幅の信頼が置ける硬質な路面

今でこそそのような冷静な分析が出来るものの、御多聞に漏れず初動時はどこかで行き止まるであろう一介の林道にしか見えなかった。今でも旧道と意識しなければ林道として純粋に走行を楽しめるし、この道の存在を知り得る者の十中八九は本線を林道として捉えているに違いない。

事実この砂利道は稜線上で四方向へと散在し、そのいずれもが砂利も撒かれていない土道へと変貌する。それを以て大方のドライバーはこのように認識するだろう。本線は作業道や支線林道を束ねる一般林道なのだと。頂上で四方に延びる全ての土道を辿れば、その認識が間違っていない事に気付く。

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◆緩勾配のダラダラ坂で確実に上昇を続ける砂利道

この道はどこにも抜けていない。だからこそ規制されていないのだと悟る。進入したところでどうせ戻って来る羽目になるし、もしかしたら作業路やブル道が入り組む迷路になっているかも知れない。現場で僕もそれを強く意識したくらいだから、引き返すのが常人の無難な選択肢となる。

但し中には旧国道の存在を知った上でやってくる者もいる。そういった輩は迷宮の入口となる頂上の四差路ごときでは諦めない。それに旧道に進入してすぐに現れる最初の異変に彼等が気付かないはずがない。曲率半径25m前後で弧を描き反転するヘアピンカーブがそれだ。

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◆全体像が掴めない曲率半径30m超のヘアピンカーブ

単に低山の山中へと分け入る林道等であれば、そのまま行き切ってしまっても良いし、直登に近い急勾配の道程で最短で頂上を目指してもいい。しかし実際の線形はなんだか非常に緩いものになっている。低山なのにダラダラと登坂する無駄に距離を稼ぐ仕様になっている。

木材を運び出す大型車の通行がメインと考えればそれまでだが、国道筋と付かず離れずで西進している点は見逃せない。それに刈り払われていない両脇の余白には伸び代がありそうな予感がする。事実両脇の50cm幅が浅い藪になっていて、有効活用出来そうな状態にある。

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◆路の両脇には50cm程度の余白が認められる

パッと見は大型車一台の通行がやっとの狭隘路に映るが、いざとなれば普通車同士の擦れ違いが叶うのではないか?それもほぼ全ての箇所に於いて。林業目的で敷設された一般林道では関係車両の通行しか考慮しないので、他の車両と擦れ違う為の待避所の設置は稀である。

少しでもレジャー目的が加味されている路線はその限りではないが、生活路線に重なる大規模林道や併用林道を除けば、基本的に一般車両の通行は想定外で待避所という概念は存在しない。勿論道幅に必要以上の余白を設ける必要もない。法下から路肩までが有効で、道幅に余裕が無いのが実態だ。

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◆視界前方にターゲットとなる稜線を捉える

しかし当山道には有り余る余裕がある、それも両脇に。交通量が皆無に等しく無効がゆえにびっしりと草が根付いているが、MAXまで活かせばほぼ全ての箇所で車両同士の交換が叶うのはほぼ確実である。

当路線が一介の林道なのか、それとも道央自動車道の前進となる幹線であったのか、この有り余る幅員に気付くのと気付かないのとでは豪い違いだ。その判断如何では査定及び行動に雲泥の差が生じると言っても過言ではない。

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