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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>旧道>北海道>チャシ峠 |
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チャシ峠(9) ★★★★ |
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チャシ峠(ちゃしとうげ)の取扱説明書 猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられる礼文華山道。その完全制覇を試みるにあたり外せない区間がある。それがチャシ峠だ。恐らくドライバーの十中八九は現場が峠越えである事実に気付いている。しかしそこに峠名を配した地図は皆無に等しく、その他諸々の書物に於いても完全スルーを決めている為、一般にチャシ峠が公然と語れる事は無い。しかしこの峠抜きに礼文華山道は語れない。道路・鉄道共に難所の痕跡は随所に垣間見られ、長大山道の一角を成す難コースという現実を認めざるを得ない。現場は一時代前の北海道の道路事情を今に伝える格好の舞台で、礼文華峠と大岸峠の中継ぎというよりもチャシ峠そのものが主役級の逸材で、この報告書によって我々はチャシ峠がけして脇役でない事を強く意識するだろう。 |
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◆文学碑公園から望むチャス(手前)とチャシ(奥) チャストンネルを潜り抜けた直後には再び砂浜が広がっている。本来ならば結構な距離の砂浜が展開していいはずだが、そこには二つの大障害が迫り出しロングビーチを三分割にしている。ひとつは海上に大きく迫り出し、まるで進水式を行う巨大戦艦のようにも映る。 もうひとつの障害はギリギリで海に浸かるのを躊躇い、どうにかこうにか陸地に踏み止まったという感じで、首の皮一枚で繋がっている砂浜同士を辛うじて行き来出来る状態にある。しかしそれは波の穏やかな日に限られ、寸断された砂浜同士を常時行き来出来る訳ではない。 |
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◆チャストンネルを抜け出た直後に線形は大きく歪む 僕等現代人は週末の晴れた日を狙って訪れるので、ほとんどの場面で第二障害の前後を海岸伝いに行き来出来るに違いない。しかしそれは非日常の一コマであって、天候が悪化し誰も訪れない時分は、自ら近付こうなどとはけして思わない危険な場所と化している。 トンネルが当たり前のようにある時代は何も考える必要がないが、その昔は行けるのか否かを真面目に考えて行動する必要があった。当時の人々にとって波打ち際を往来するのは日常のワンシーンで、そこでは自己責任の下スタタタタと素早く駆け抜けねば命の保証のない危険な場所であった。 |
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◆ドライバーのオアシスと化す道の駅のような文学碑公園 新潟県の糸魚川市の西端に親不知という全国区の著名な難所がある。総延長15kmに及ぶ急崖は親不知子不知と言って、親は子供を看る余裕がなく、子も親の背中を見ている余裕がないほどに険しいとされ、波に浚われた悲話は数え切れないほどある難中之難所だ。 その親不知と比較するのはおこがましいが、波に浚われる危険が伴う難所という括りではこの海岸線も同じで、大局的に見ればチャシ峠区は蝦夷三大難所とされる礼文華山道の一角を占め、山道全体という鳥瞰図では親不知に勝るとも劣らない超の付く難所である事に変わりはない。 |
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◆旧室蘭本線の軌道から外れる形により歪な線形に その道中でロングビーチを二分する障害の片割れをアイヌはチャスと名付けた。「走れ」に込められた意味、それは潮の引き際を見極め素早く駆け抜けろ、さもなければ命の保証はないと先人達のメッセージが込められている。ながらスマホで通れるほど現場は甘くはないのだ。 恐らく過去には波に浚われ帰らぬ人となった者がいるのだろう。そうした事故が常に付き纏う危険性があるからこそ、アイヌはゴチャゴチャ能書きをこかずに単純明快に走れ!と言ったのだ。チャシは逆立ちしたって海上ルートは無理であるから、絶壁のどこかを上り下りしていたのは間違いない。 |
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◆激藪に埋もれる旧室蘭本線としばし並走する旧国道 一方チャスはどうにかこうにか波打ち際を通り抜けられる事から、蝦夷時代の最古のルートは大岸より第一障害を鞍跨ぎする形で克服し、続く第二障害は波打ち際を駆け抜けるようにして通過していたと考えられる。そして第三障害となる奇岩エリアの美の岬へと続くのである。 砂浜が途切れる文学碑公園の西端では、早くも奇岩の片鱗が視界に飛び込んでくる。道路は奇岩に吸い込まれるような形で伸びていて、それ相応の難所であろう事が察せられる。事実かつての室蘭本線は美の岬を避けるようにトンネルにて難所をやり過ごしている。 |
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◆激藪に包まれつつも巨大な人工物の片鱗が認められる チャストンネルを抜け出た鉄路と道路は、ピタリと寄り添うように緩やかな左カーブを描き、2m前後の高低差で付かず離れずで砂浜に沿って並走する。砂浜の一部は文学碑公園として整備され、道の駅のようなドライバーのオアシスとなっていて、白昼は複数の営業車両が羽を休めている。 文学碑公園を通過しても尚海岸道路は二車線を保っているが、それも落石注意を喚起する警戒標識が備わる所までだ。それを機に路は一瞬にして狭隘路へと縮小する。酷道区間の始まりの合図だ。丁度その右手にはすっかり藪に呑み込まれて久しい小さな穴が口を開けている。 |
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◆藪中でぱっくりと口を開ける旧室蘭本線の岩見隧道 それが当地で唯一破壊の難を逃れた旧室蘭本線のトンネルで、洞内には今日現在も岩見の名が認められる。室蘭本線岩見隧道、これがチャス峠区で現存する唯一の鉄道トンネルで、美の岬の奇岩を避けるようにして穿たれている。 これより道道は奇勝ルートに突乳し数多の奇岩に圧倒される訳だが、汽車の車窓からその名勝を拝む事は叶わない。なのに岩見ってどんだけ〜。岩を見れないからの岩見?ってかそう言えば岩見ってどっかで聞いたような覚えがあるんだが。 チャシ峠10へ進む チャシ峠8へ戻る |