教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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大岸峠(20)

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大岸峠(おふけしとうげ)の取扱説明書

北海道新幹線開業のニュースが世間の耳目を集めているが、JR北海道が入念な最終チェックをしている時分に、僕は最初で最後の一大プロジェクトに取り組んでいた。猿留山道及び雷電山道と並び蝦夷地三大難所に数えられる礼文華山道の完全制覇である。単車による走破、それも豊浦から長万部まで全て旧道を伝い、しかも半日で一気に駆け抜けるという壮大且つ無謀な試みで、計画の段階で大岸⇔豊浦間が最大の懸案事項と目された。海のものとも山のものとも分からぬ未踏区は、難易度は高いが攻略出来なくはない。出足平峠・豊浜洞・湯内峠の長大山道以来の大長編スペクタクル第一弾、オフケシ峠の衝撃・今宵解禁。尚今度こそR8での峠越えを立証すべく最善を尽くす。下町ロケットアウディ計画トラストミー編、始まります。

 

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◆道跡か否かさえも判然としない超強烈な藪密度

藪の大海で漂流して七日目の朝を迎えた。実際は一泊もしていないので廃道ビジネス宛らの誇大表現であるが、当時の僕の心境たるや泳いでも泳いでも水平線しか見えない絶望感に苛まれ、しがみ付いている丸太(単車)だけが頼りの非情に心許無い心境であった。

現に飲み水は底を尽きかけ、まともな食料も持ち合わせていない。今の俺を喰ってもおいしくないよ〜それでも良ければカモン!と強気の姿勢は崩さないが、いい加減生も根も尽き果てた感がある。舞台が大海原であれば虫の息となって丸太にしがみ付く僕の水面下にサメが群がるイメージだ。

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◆藪を刈り払って人一人分の空間を確保するのがやっと

何だかんだ言って現場は羆の巣窟である。舞台が陸か海か相手がサメかクマかの違いでしかなく、デンジャラスゾーンで進退ここに窮まる手詰まり感は否めない。このままでは死んでも死に切れない、これは流行語大賞にもノミネートされているウルトラマン要一の迷言であるが、それは僕の台詞だ。

物理的に死が差し迫った状況下とそうでない環境下では、同じセリフでも意味合いがまるで違ってくる。誰かさんの負けたら切腹程度の軽率な発言で、空気よりも軽いゴネ得狙いの失言はなるべく控えてもらいたい。こっちは極限の疲れマラで、夕立びんびん物語で早漏遅漏候。

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◆唐突に視界前方が大きく開けダブルトラックを発見

生命の危機に瀕する状況下で何とか子孫を残そうとする自然な反応なのであろうが、この意志に反する不可解な反応をみるにつけ、神は全く不可思議な現象を与えたものだと首を捻らざるを得ない。ただ神は乗り越えられない試練は与えない。その格言通り雲の割れ目から日差しが差し込むように視界が開けた。

樹海そのものの様子はこれまで同様鬱蒼としていてほとんど変化は見られない。ただ足元の状況に劇的な変化が生じていた。見てくれ、浅藪を踏み締めたと思われる轍跡を。それも二条が等間隔で真直ぐに伸びている。間違いない、二条の轍は四輪がここまで入り込んだ証だ。

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◆現場は5m幅の巨大空間で両側は高さ5m弱の法面

逆側から見ると轍跡は極めて不鮮明ではある。しかし自動車が刻んであろうダブルトラックであるのは状況からも疑う余地がない。二条の轍の間だけ草が踝程度しか丈がないのだ。その理由が雑草を刈り払ったからなのか、頻繁に車両が出入りしているからなのかは分からない。

ひとつだけはっきりしているのは四輪一台分の空間がぽっかり空いているという事だ。それだけではない。丈が1.5m前後で揃っている周囲の笹藪も、凹凸の無しの更地の上に根を張っていて、実は2m前後の空間の両脇1.5m程がかつての車道である事が判明した。

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◆切り通しの先に砂利道のような現役路線を捉える

周辺全てを丁寧に刈り払えば恐らく全幅5m幅の巨大空間が出現するはず。しかも驚くべき事にその空間は両側が法面という特殊な形状になっている。両側が斜面と知って想起するのは切り通しだ。現場が土饅頭を掘り割ったV字のオープンカットであるのは最早疑う余地がない。

山道の道中に峠らしい峠は見当たらなかった。廃道内では著しい高低差は皆無で、ほぼ全てが横這いに進んでいるとしか感じなかった。ただ途中で若干の下り勾配が認められた為、どこかでピークを打ったのだろうと思っていた。しかし今は全く異なる見解であるのは言うまでもない。

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◆切り通しを抜けると同時に路は明確な下り坂となる

この切り通しが真の峠だ!

そう言い切れるのは切り通しを抜けたと同時に路が下りに転じているからだ。ここに至る過程でも地味にアップダウンを繰り返していたのかも知れないが、今度のは誰がどう見てもはっきりとそれと分かる明快な下り坂だ。

ニュートラルにすれば単車がスルスルと下り始めるほどの勾配で、長かった山道の終焉を迎えると共に下山を強く意識する構造になっている。それでは御覧頂こう、古来大曲と呼ばれ恐れられた峠の全貌を。

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◆切り通しの直後に180度反転する山道とサミットの全貌

ドーン!

見よ、これが長大山道に於けるサミットの全体像だ。180度反転して迎える切り通しは、数多の峠と何等遜色ない構造をしており、どこが頂上か判然としないというこれまでの認識とは180度異なる頗る鮮明な形状をしている。これを峠と言わずに何と言おう?それくらい最後の最後に現れた切り通しは、強烈なインパクトを以て僕の廃道史に刻み込まれた。

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