教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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太櫓越峠(11)

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太櫓越峠(ふとろごしとうげ)の取扱説明書

渡島半島の東側を南北に走る海岸線は、我が国で五番目に重要な路線にして、北海道随一の幹線である事に異論の余地はない。その東海岸線を陽とするならば、瀬棚と江差を結ぶ西海岸線は陰となる。山陽道と山陰道の例を出すまでもなく両者の交通量には決定的な差があり、結果開発は遅々として進んでいない。事実これより挑む山道は昭和の晩年まで直に鞍部を跨いでいたし、鉄道は今も昔も西海岸線を走破した試しがない。結果太櫓越山道が唯一の生命線となる訳だが、山道に注がれた先人の血と汗の結晶は、トンネル開通後も極上の峰越フラットダートなる副産物を齎す。その恩恵に授かったドライバー&ライダーは少なくない。走破済という経験則から今度こそR8での峠越えを立証したい。下町ロケットアウディ計画起死回生編、始まります。

 

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◆パッと見が明治の馬車道のように見えなくもない山道

当山道は御覧の通り必要最低限の整備が成されている。言い換えればそれは歩くのに支障がないものには手を出さないという事に他ならず、事実単車の通行に不都合な障害物はそのまま放置されている。例えば地上1mの高さで路上を横切る生木等は手付かずのままだ。

歩行者であればそいつをひょいと乗り越えたり潜ったりすれば済む話であるが、単車だとそういう訳にはいかない。生木の本体は切断しないにしても、枝を落としたり単車を極限まで倒して通過するなどその都度一時停止を余儀なくされる。その間も行動を逐一監視されている可能性は否定出来ない。

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◆サイドからの植物の侵攻が半端無く道幅が狭まる

前後左右のどこから奴が飛び出してくるかは全く以て予測出来ない。作業中の不利な態勢で出会ったが最期、経験した事のない張り手を喰らってその場で意識を失うだろう。羆との接触事故の大方が出合い頭であると聞く。人間も熊も互いが餌取りに夢中になり、気付けば至近距離に居たといった感じだ。

僕に林道へ入る際は鉈一本常備する事を教えてくれたおいちゃんがいる。氏は一般道へ抜け出るその瞬間までエンジンは切らないと言っていた。一服する時も立ちションをする際もノイズを絶やさず、自身の存在を周囲に知らせていた。氏は僕にもその行為を強く勧めた。無防備な単車であるから尚更だ。

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◆T字路のような分岐点で進むべき方向を見定める

四輪でも警戒を怠らないおいちゃんからすれば、単車でひとり林道へ突撃する様は酷く危なっかしく映ったに違いない。その後舞台はより一層酷い旧廃道へと移ったから、その後の僕の行動パターンを知ったら恐らくドン引きするであろう。馬鹿に付ける薬は無いと閉口するのではなかろうか。

ただ激藪を主戦場とする今でもおいちゃんの教えは忠実に守っているし、年を追う毎に対策も強化している。熊避けスプレー(期限切れ)を筆頭に、エマージェンシーホイッスルが良いと聞けば秀学荘で仕入れ、鈴が一番と聞けばホーマックへ駆け込み、ラジオが必携と知ればアマゾンでポチクリし局留めで入手した。

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◆交点を左の路は刈り払われていて地肌が露出している

山仕事のおいちゃん、ベテラン登山家、フィッシャーマン、熟練の山菜ドロボー採り、装備は三者三様であるが彼等がオススメする全ての小道具を揃え武装する事に加え、単車のノイズに単車での体当たり、そしてライダーキックまで考慮すると生態系の頂点に君臨しているとしか思えない。

余裕だな、今そう思えるのも過去に当山道を通り抜けているという自負があるからだ。それに何だかんだ言って定期的に人が訪れている点が大きい。間違いなくこの山道に常用的に人が入り込んでいる。それをはっきりと示す物証が目の前に現れた。木の幹に巻き付けられているピンクテープがそれだ。

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◆T字路の直前は暗渠で水路用の小隧道が認められる

彼等は自身が辿る道筋を丁寧に刈り払っている。山道の出口までその状態が続いているのを期待する僕は、地肌が露出する禿道を迷わず踏襲する。するとどうだ、浅藪道が1.5mから1m、そして50cm幅へと急激に縮小していくではないか。そしてあっという間に登山道と化した。

ヤバし!彼等は山道の一部のみを利用しているに過ぎず、全線が刈り払われている訳ではなかった。この事実を知った瞬間膝から崩れ落ちそうになる。振り向けば谷底にトンネルのような構造物が視界に飛び込んでくる。単車を単なる通路上に停めたつもりであったが、実は巨大な暗渠の真上に居たのだ。

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◆本線は右に弧を描いていたと主張するデリネーター

太成方面を目指す山道が明後日の方向へ向いたとなれば、どこかで反転しないとおかしい。谷底に降り切った感触はあったから、何等かの軌道修正が成されるものとは思ったが、まさかそのタイミングでおいちゃん道が離脱するとは想像すらできなんだ。非情にもデリネーターは右へ進めと言っている。

暗渠を跨いだ瞬間おいちゃん道は左へ直角に折れ曲がる。沢を跨いだ直後に浅藪道は左へ折れ、そのまま沢筋を遡上する形で奥へと消えている。一方本線と思わしき道筋は右へカーブしており、180度反転した路が再び海岸線を目指すべく方角としては頗る正しい。

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◆T字路の隅の泥濘に巨大な足跡を発見し即時撤収する

ただ僕の視界には鉄壁の藪壁が立ちはだかり、勢いだけで突進出来ないのは明明白白であった。長期戦を覚悟せねばなるまい。亀裂の補修と刈り払い、それに丁寧に撮影してきた事もあって時間は押している。尻カッチンにつき本日は撤収だ。

あと小一時間程度なら現場を精査する時間的余裕はあった。だが僕は間髪入れずに撤退する。瞬時に反転したのには訳がある。これより挑まんとする泥濘の中に、アッコさんのを凌駕する超巨大な足跡を捉えたからだ。

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