教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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花石峠(15)

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花石峠(はないしとうげ)の取扱説明書

花石と聞いてすぐに北海道は道南の今金町のあの花石か!と思い浮かぶとしたら、余程の北海道通か当地生え抜きの人間に限られる。しかも花石峠の存在自体を認識しているとなると、もうその時点で廃道コンシェルジュを名乗ってもいい。何せ廃道仙人掘淳一氏率いるコンターサークルSが徒歩による縦走にも拘らず断念せざるを得なかった重鎮御墨付の強烈廃道である。廃道スナイパーの狙撃対象としては申し分ない格好の題材だ。現状を想像するだけでも武者震いするが、ターゲットは美利河峠の終点である花石郵便局から目と鼻の先に位置する。美利河峠の今昔を白日の下に晒した今、返す刀で花石峠を攻略しない手はない。美利河と花石の二部構成による後編の作戦名は、下町ロケットガウディ編に便乗しアウディ計画とする。アウディR8でどこまで突っ込めるのか?その辺も見極めつつ全貌を解明すべく侵攻を開始する。

 

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◆ヘアピンカーブで巨樹の障壁を回避する馬車道

瀬棚線跡を踏襲する形で平成12年に開通した花石道路が成立するまで長期政権を誇った奥沢経由の旧国道筋は、昭和32年の地形図で初めてその姿を公の場に晒す。昭和20年版ではまだ珍古辺峠が本線である点を踏まえると、旧旧道から旧道への切替時期は自ずと昭和20年代に絞り込まれる。

逆説的に戦後しばらくは猫も杓子も珍古辺峠を越していたとの解釈が成り立つ。大草原の片隅で山道は突如激藪に包まれ、行き場を失った僕は焦りに焦った。視界前方に待つ巨樹の障壁は人力ではどうにもならず、道跡が樹海へと真直ぐに突き進んでいるのであれば、残念ながらそこで痔・遠藤である。

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◆第二ヘアピンより樹壁に沿って直線的に進む藪道

ところが山道はカラマツの群生を回避するかの如し右へ急旋回し、その場で消息を絶つ事はなかった。しかしこれより先は全く油断ならない。何故なら見渡す限り地表のほぼ全てが激藪に包まれ、足元の様子は棒で突っついてみないと分からないほど濃密な藪の楽園と化しているからだ。

パっと見はここに至る過程同様大型車一台分の車道が続いているようにも見える。しかし路肩が削られ一本橋状態まで狭まった箇所に倒木のトラップが仕込まれ、その罠に嵌まった挑戦者が路外へと放り出されるのを虎視眈々と狙っている。ここは慎重に路面を精査しつつストップ&ゴーを繰り返すしかない。

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◆一本橋状態であったり倒木が潜んでいたり障害が多い

大草原の第二ヘアピンからたったの100m進むだけで大量の汗が噴き出す。最後の最後まで浅藪程度で抜け切れるのではないかという僕の甘い見立てはあっさりと打ち砕かれた。藪を刈り払ったり倒木を除去したりで100m移動するのに10分以上を要している。

今ここで木陰から森のくまさんが現れたら一巻の終わりだ。一般的な砂利道であれば単車は応戦する為の武器にもなるし、猛スピードでその場から離れる脱出装置にも成り得る。だが今の状況では単なる御荷物でしかない。威嚇用としてクラクションがあるにはあるが、単車のなんてホイッスルと大差ない。

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◆藪密度が増すも視界の先に左に弧を描く法面を捉える

考えてもみて欲しい。北海道の重鎮掘淳一氏率いるコンターサークルSは、背丈以上もある激藪に阻まれ峠付近にて撤退している。たまたま造林業の恩恵に授かれたとはいえ、峠区全道程の3/4程は掌握しているのだから、成果としては必要にして十分ではないかとムーンウォークをし始めている自分がいる。

ただ視界前方は巨大な掘割となっていて、右側の法面が左に弧を描いている様子が窺える。藪の深さに比例して黒い魔物との遭遇確率は高まり、また逃げ遅れる可能性も飛躍的に増す。あのカーブを曲がった先には未踏の馬車道があると同時に、魔物が息を潜めている可能性はゼロじゃない。

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◆気が付けば広角に割れたV字の掘割の真只中にいる

あのカーブの先をこの目でしかと見届けたい、けど怖い。この怖さはコニタンが待つ部屋のドアを開けると、小西真奈美か小西博之のどちらかが待機しており、一晩二人きりで過ごさねばならないの刑に似ている。まいう〜!か、ヤバし!か、それとも敵前逃亡か。あなたならどっち?!

進むと見せ掛けてその場に踏み止まるランニングマンで時間稼ぎという方法もあるにはあるが、ここはホテルの廊下じゃない。滞在時間に比例して生還率が下がるデンジャラスゾーンであるから、出来れば即断即決が望ましい。しかし焦ってはいけない。ここはとりあえず石を投げてみる。シーン。

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◆藪の丈が身の丈に等しい視界の利かない第三ヘアピン

全く反応は無い。コーナーの直前で既に藪の高さは身の丈に達しており、こいつを掻き分けて進むとなると相当なエネルギーの消費を余儀なくされる。身動きが取れなくなるほど完膚なきまでに体力を消耗させられたところで、いざ猛獣が現れたとしたら完全にお手上げだ。

美利河峠を拓くのにそこそこの藪で苦労はしたが、視界を完全に遮られるような場面は稀であった。それに比べて珍古辺峠の藪は地上からの高さが半端無い。流石コンターサークルが引き返しを余儀なくされただけの事はある。この激藪を延々と漕ぎ続けるのはある意味自殺行為に等しい。

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◆事態が一変する大草原最下部の第三ヘアピンカーブ

北海道には1万頭を超えるヒグマが野放しとなっている。芸を仕込まれた熊牧場の個体やプーさんなどのキャラが陽であるならば、登山や釣りや山菜採り等で偶発的に対峙する野生の熊は陰となる。奇くしくも現場は陰陽の境がはっきりとしている。

180度反転する第三ヘアピンの先の日陰には、果たして何が待ち受けているのだろうか?恐る恐る歩を進める僕の視界に飛び込んできた馬車道の続きは、くるりと反転した先で意外な展開を魅せるのである。

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