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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>北海道>美利河峠 |
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美利河峠(19) ★★★★★ |
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美利河峠(ぴりかとうげ)の取扱説明書 ニセコ・ルスツ・トマム・・・北海道に於ける片仮名の三文字表記地名は?3秒前、2、1、Q!と行き交う者にいきなり投げかけると、必ずと言っていいほど返ってくるのがメジャースキーリゾートと相場は決まっている。そこにピリカの名を挙げる者はまずいない。道民の内外を問わずピリカってどこ?ピリカって何?というのが現実的な反応である。その影の薄さは道路的にも然りで、美利河峠越えを目的として国道を走る者は皆無に等しい。だがそれが単なるドライブやツーリングではなく、旧廃道の探索となると話は別だ。一般に美利河峠に古道筋は存在しないとされ、旧廃道に言及した記事を目にした試しはない。事実拡張に次ぐ拡張で形成された現在の峠付近に、並走する別ルートは実在しない。但しその前後には失われた切り通しを補って余りある長大路線が森の奥深くで息を潜めている。そこで目にしたのは道内各地に点在するメジャー物件に勝るとも劣らない涎もののレアな歴史道であった。完踏が叶わない絶望的な廃道の秘奥に見た超絶レア絶景と、辛うじて単車での踏破が叶う長大藪道の現況を余す事なく白日の下に晒す。 |
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◆単車が埋もれてしまう深さの藪に行く手を阻まれる 藪道は川に沿って順調に下っている。並走する後志利別川とは付かず離れずで一定の距離を保ち、次の市街地である花石を目指し確実に高度を下げている。山道は地形に従い小刻みに上り下りするも、横這いもしくは下り坂の区間が圧倒的に多く、足元の泥濘は思っていたほどの脅威ではない。 沼地の如し酷い箇所は滅多にない。だが一度嵌まったら抜け脱せないと思われる深みが無い訳ではない。場所によっては怖くて堪らない底無し沼の如し巨大な水溜りも存在する。そんな時は最も浅い箇所を狙うか、そうでなければ左右の藪どちらかにコースアウトして渡るしかない。 |
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◆浅藪になっている離合箇所と思わしき膨らみ この年は例年にも増して天候に恵まれず、どのコースも大なり小なり水分を多く含んでいる。どのジハードもコントロールの利き難い厳しい闘いを強いられたが、特にピリカの聖戦ではほぼ全線に渡る湿気を帯びた悪路に悩まされた。太陽は燦々と降り注いでいる。しかし密度の濃い藪壁が太陽光を遮断する。 特に丈のある樹木に覆われた区間はその酷さが顕著で、恐るべき事にほとんど湿地帯と化している。撮影しようとサイドスタンドを立てた所で、泥濘にズブリと減り込んで全く用を成さない。その場で石や小枝を拾って対処するも、停滞時間の増大は黒い魔物との遭遇リスクを飛躍的に高める。 |
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◆微妙な勾配の登り坂でもタイヤが滑りまくる 当山道は万年湿気を帯びているのか、完全に乾いている場所が滅多に見当たらない。ノーマルシューズだとあっという間に濡れテックスになるくらい路面はぐちゃぐちゃで、根曲竹にやられて久しい自慢のゴアテックスシューズは、歩く度にクチョーン・クチョーンと不快な音を発している。 異音だけで済めばまだいい。それに靴を脱いだ際の悶絶する異臭が加わるのだから、若者が敬遠する3Kどころの騒ぎではない。靴及び靴下が泥水100%で満たされながらの作業は不快この上なく、不退転の決意で挑んだピリカ戦であるが、関係ねーよ!と往年の萩原流行ばりに吠えたくもなる。 |
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◆数的には少なくない待避所と思われる膨らみ それが負け犬の遠吠えでしかない事は誰よりも分かっている。ただ僕はこの聖戦に挑むに当たりもうひとつ大きなミスを犯している。それがタイヤのミスチョイスだ。まさか行くとこ行くとここんな泥濘が続くだなんて想像すら出来ず、舗装路メインでちょいダートOKの廃道には不適なタイヤを履いてきてしまったのだ。 限りなくオンロード寄りのタイヤで参戦した事を激しく後悔したが、時既に遅しだ。ぶっちゃけ次いでに言ってしまうと、ミズノが誇るベルグテックEXを搭載したジャケットも根曲竹の餌食となり、今じゃ濡れテックEXと化している。濡れテックスシューズと濡れテックジャケットの不完全防水仕様の鉄壁の守りである。 |
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◆車道らしさが残る人為的に掘り割られたV字の窪み 人はそれをダダ漏れシューズとダダ漏れジャケットの哀れな冠水仕様と呼ぶ。この年鬼怒川が決壊し多くの家屋が浸水したが、その頃僕も腰下腰上浸水の激甚災害に見舞われていた。それにタイヤがダンロップD604という致命的ミスが加わるのだから目も当てられない。 労働基準監督署より直ちに業務改善命令が下る過酷な環境で、一人蟹工船と言ってもおかしくはない厳しい条件ではあるが、当の本人は周りが思っているほど状況を最悪とは感じていない。むしろ冠水上等!とヤル気はいつになく漲っている。遂に頭が逝かれたか?いや、そうじゃない。 |
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◆足元が盛土によって一定の高さが保たれている この道の今昔の前には僕の脆弱な環境など霞んで見えるし、この山道が辿った歴史的背景を踏まえれば、一個人の動労環境などどうでもよくなってくる。例え青汁塗れになろうともミッションは完遂せねばならない。この山道はズタボロの僕を奮い立たせるには十分な背景を有している。 落橋によって峠の東側が満足に調査出来なかったという負い目があるから、西側は何としても攻略したいという思いが強い。また10年以上も前とはいえ四駆で走り抜けている者がいる以上、単車での踏破が不成立という失態だけは何としても避けたい。それ以上に僕には完遂を目指す十分な動機がある。 |
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◆ほとんど自然に還っているかつての幹線道路 この藪道が正真正銘の利別山道であるならば、このルート上のどこかを簡易軌道が上下していた事になる。軽便木道という表現から茅沼炭鉱軌道同様旧式の軌道が想像されるが、明治と大正に測量された地形図にその姿は示されない。 美利河峠を舞台とする幻の軽便鉄道。交通史家として見逃す事の出来ないその謎多き軌道について、峠を挟む渡島と檜山の両管内で見解に多少の食い違いはあるものの、その存在は確かなものとして詳らかとされている。 美利河峠20へ進む 美利河峠18へ戻る |