教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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美利河峠(18)

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美利河峠(ぴりかとうげ)の取扱説明書

ニセコ・ルスツ・トマム・・・北海道に於ける片仮名の三文字表記地名は?3秒前、2、1、Q!と行き交う者にいきなり投げかけると、必ずと言っていいほど返ってくるのがメジャースキーリゾートと相場は決まっている。そこにピリカの名を挙げる者はまずいない。道民の内外を問わずピリカってどこ?ピリカって何?というのが現実的な反応である。その影の薄さは道路的にも然りで、美利河峠越えを目的として国道を走る者は皆無に等しい。だがそれが単なるドライブやツーリングではなく、旧廃道の探索となると話は別だ。一般に美利河峠に古道筋は存在しないとされ、旧廃道に言及した記事を目にした試しはない。事実拡張に次ぐ拡張で形成された現在の峠付近に、並走する別ルートは実在しない。但しその前後には失われた切り通しを補って余りある長大路線が森の奥深くで息を潜めている。そこで目にしたのは道内各地に点在するメジャー物件に勝るとも劣らない涎もののレアな歴史道であった。完踏が叶わない絶望的な廃道の秘奥に見た超絶レア絶景と、辛うじて単車での踏破が叶う長大藪道の現況を余す事なく白日の下に晒す。

 

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◆耕運機で耕したかのような田んぼ状態の反転箇所

見てくれ、この数え切れないほどの轍の跡を。地盤の緩い路面は四輪が行き来する度に練り込まれ、今やすっかり粘土状の泥濘と化している。彼等はここでくるりと反転し上昇を開始する。後志利別川沿いを下るはずの路が、180度ターンで上り詰める線形に僕は激しく動揺した。

経験上有り得ないシュチュエーションではあるが、本線である可能性がゼロではない以上、その行方を確かめない訳にはいかない。僕は迷わず方向転換し彼等の跡を追った。するとどうだ、山道は右へ左へと小刻みに折れ曲がりながら、ひたすら斜面を駆け上がって行く。それもかなりの勾配でだ。

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◆反転する本線とは別に直進には空間が広がっている

反転した路は進むべき方向とはまるで異なる。どこかの山頂を目指すかの如し勢いで、ひたすら斜面をジグザグに駆け上がっている。後で判明した事だが、この道の行き着く先はピリカスキー場の天辺で、ゴンドラの山頂駅へ通じる唯一の路として機能しているらしい。

そんな事情も知らずに突っ込んだ僕は、ひたすら高度だけを稼ぎ続ける山道に大いなる不信感を抱いていた。どこかで見切りを付けなければ埒が明かない。この道が使途不明のまま引き返すのはスッキリしないが、“違う”という直感に従いそれ以上の上昇を止め引き返した。

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◆少々刈り払うと現場が5m幅の掘割である事に気付く

180度ターンで反転するヘアピンコーナーは、単なる急カーブではない。そこは後志利別川に沿って下る直進路と、スキー場の山頂を目指す山道とのT字路である。事実正面には僅かながら空間が認められ、そこには人一人の通り抜けがやっとの怪しい空間がある。当然ながら足元のタイヤ痕は皆無である。

この地点で往来車の100%が切り返している。従って反転する路を疑わない訳にはいかなかったし、本線である可能性を排除する目的も少なからずあった。上を目指す山道が単なる支線であれば、目の前の怪しい路に全力投球出来る。その目的はほんの数分で達成される。間違いない、本線は直進だ。

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◆現役時代は離合箇所を兼ねていたと考えられる掘割

現在の本線が突如反転する路であるのは明明白白だ。ただその道を潰した事により僕は目の前の現実と対峙する事になる。直進方向は分厚い藪の壁に閉ざされている。通常の感覚では突っ込もうという気にはなれない。適当な範囲の刈り払いを試みてはみるが、それでも侵入するのは躊躇する。

視界前方に待つ無尽蔵の藪塊もそうだが、湿気を帯びた滑り易い足元が、恐怖心を1.5割増しとしている。盛大に藪を刈り払っても尚足元の不安が拭えないのだ。この先もずっと横這いの路もしくは下り坂が続けば話は別だが、上下に波を打ちながら高度を下げて行くのがオチである。

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◆掘割を過ぎると山道は左へ緩やかなカーブを描く

現代の路でさえ下り一辺倒という線形は稀であるから、地形に逆らない一時代前の路がアップダウンを繰り返す姿は容易に想像が付く。それでもこの藪道を本線と見定めた以上前に進まない訳にはいかない。僕は覚悟を決め、えいやっ!と藪の大海へと身を投じた。

するとのっけから藪道は緩い左カーブの下り坂となっていて、水分過多の泥炭路で制御不能に陥ったヘナリワンは、右へ左へと予期せぬ方向へ振られまくる。そこはまるでスケートリンクに等しく、氷上の貴公子羽生結弦選手にも是非穴場として教えてあげたい秘密のスポットである。

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◆刈り払っても山林と道路の境界は依然として曖昧なまま

羽生君、見てごらん。ほ〜ら、君の知らない世界がここにある。世界を狙うならこの程度の藪床で悲鳴を上げていては駄目だ。そんなんじゃ銅メダルさえおぼつかないぞ!藪バウアーを世界に見せ付け優勝するんじゃなかったのか?

その為に廃道養成ギブス(定価49万8000円)があるんじゃないか馬鹿者が!えっ、既に金メダリストってか?僕が藪の刈り払いに明け暮れている間に、彼は世界を獲ってしまったとさ。ならばこの場を借りて祝辞を述べよう。

何だかな〜!by阿藤海

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◆現場は凄まじい藪に閉ざされ画的に道路には見えない

道路と山林の境界線はあやふやで、辿っている藪道すら道路か否か判然としない状況に、何だかな〜以外に言葉が浮かばない。頭上の空間が水先案内人として機能してはいるが、本当に道跡を刈り払っているのか正直自信がない。

適当に藪を刈り払ってこの有様であるから、普段の現場がいかに凄まじいかがお分かり頂けるものと思う。恐らく刈分道時代の利別山道もこれと似たり寄ったりの劣悪な環境であったに違いない。こんな藪道でも幹線を名乗っていたのだ。

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