教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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美利河峠(8)

★★★★★

美利河峠(ぴりかとうげ)の取扱説明書

ニセコ・ルスツ・トマム・・・北海道に於ける片仮名の三文字表記地名は?3秒前、2、1、Q!と行き交う者にいきなり投げかけると、必ずと言っていいほど返ってくるのがメジャースキーリゾートと相場は決まっている。そこにピリカの名を挙げる者はまずいない。道民の内外を問わずピリカってどこ?ピリカって何?というのが現実的な反応である。その影の薄さは道路的にも然りで、美利河峠越えを目的として国道を走る者は皆無に等しい。だがそれが単なるドライブやツーリングではなく、旧廃道の探索となると話は別だ。一般に美利河峠に古道筋は存在しないとされ、旧廃道に言及した記事を目にした試しはない。事実拡張に次ぐ拡張で形成された現在の峠付近に、並走する別ルートは実在しない。但しその前後には失われた切り通しを補って余りある長大路線が森の奥深くで息を潜めている。そこで目にしたのは道内各地に点在するメジャー物件に勝るとも劣らない涎もののレアな歴史道であった。完踏が叶わない絶望的な廃道の秘奥に見た超絶レア絶景と、辛うじて単車での踏破が叶う長大藪道の現況を余す事なく白日の下に晒す。

 

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◆寸断された地点から眺めると川岸に居るのが分かる

車道の跡ゼェ〜ット!

僕の雄叫びに反応する者は皆無で、川のせせらぎをBGMに樹海はいつもと同じ朝陽を粛々と受け入れている。侵入者の奇声は一瞬にして掻き消され、絵画の如し微動だにしない森はいつもの通り沈黙を守る。

深淵には30cm級の魚影が優雅に揺らめいている。空き缶の主が狙っているのは恐らく川のヌッシーで、常人では近寄り難い激藪の渦中にある現場は、知る人ぞ知る秘密スポットと化しているのだろう。

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◆川岸からコンクリ塊には一本の柱が渡されている

川底に不沈艦の如し停泊する重量船は、フィッシャーマンの格好のお立ち台となっているのか、岸際から一本の丸太が渡されている。水深は長靴が全く役に立たない深さにあるが、丸太の御蔭でアプローチ可能な状態にある。安全に降下出来る軟斜面を求めるが、なかなか有効な経路が見付からない。

とりあえず当たりを付けて根曲竹の群生に分け入ると、転げ落ちるようにして川岸に着地する。その途中で目にしたのはコンクリート製の垂直壁で、現場付近ではコンクリートがふんだんに使われている様子がはっきりと見て取れる。誰が?いつ?何の目的で、どのようにして搬入したのか?

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◆現場には大木がくの字状に横たわっているのが分かる

般ピーが容易に近寄れない樹海の秘奥で目にする異様な光景は、冒険家や探検家の好奇心を大いに擽る。ジャングルの奥に眠るアンコールワット、急崖の突端に忽然と現れるマチュピチュ、砂漠の底に埋もれるピラミッド、どれも場違いな異物として興味は尽きない。

それらとスケールは全く異なるが、激藪の渦中に認められるコンクリ塊という不自然さは、僕にとって必要にして十分なディープインパクトであった。僕が北海道知事であったなら直ちに北海道遺産として審査するよう命じる勢いで、この衝撃は誰かに伝えずにはいられない。

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◆底から見上げると垂直壁はコンクリである事が判明

激藪に包み隠されたコンクリ塊というだけで十分そそられるが、それ以上に僕を釘付けにしたのが対岸への橋渡し役として機能する丸太の存在で、初めは釣り人が川渡り目的で意図的に設置、或いは流木が引っ掛かっただけと思ったのだが、実はそうではなかった。

川底にはくの字状に二本の丸太が横たわっている。長さ径共に同等の丸太ではあるが、よく見ると両者は似て非なるものである事に気付く。一本は胴体が微妙に曲がっており、ランダムに枝が生えていた痕跡も認められる。一方橋渡し役の大木は住宅建材の如し真直ぐでブレがない。

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◆川底のコンクリ塊には一本だけ大木が天を仰いでいる

ブレがな〜い〜 ブレがな〜い〜

普通の木なのに ブレがな〜い〜♪

クロレッツを噛む玉木宏氏もその意外性に思わず口の動きが止まる。冷静に見れば見るほど両社の違いは歴然である。真直ぐな木と歪んだ木、その違いはここに至る過程で人の手によって加工されたか否かにある。

加工木と自然木、それがくの字状に横たわる二本の大木の正体である。片や根っ子が認められるのに対し、もう片方にはあるはずの根っ子が無い。それどころか真直ぐな木には決定的な人工物が埋め込まれていた。それがこれだ。

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◆ナット付きのボルトの存在により支柱である事が分かる

ドーン!

見てくれ、この錆び錆びのボルトを。前後には四角い座金が認められ、縦軸に対し何等かの付属物が備わっていた事実を物語る。現場にはたった一本だけ直立不動の柱が実在する。そいつは不沈艦にしっかりと根付いている。

川底に鎮座するコンクリ塊に突き刺さるボルト付きの大木が、互いの存在無くては成立し得ない関係にあると訴えている。事実コンクリ塊の表面には、大木の受け皿となる丸い穴がはっきりと見て取れる。

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◆四つの円状の受け皿が五本の支柱の存在を物語る

一本の立木と四つの円状の穴、かつては細長いコンクリ塊の中央を、大木五本が等間隔で立ち並んでいたであろう事は容易に想像が付く。そのうちの一本が今日まで踏ん張ってくれた御蔭で、我々は崩壊以前の容姿を簡単にイメージ出来る。

かつてここには強固なコンクリ塊を地盤とする五本の柱が聳え立っていた。その目的は着水せずに重量運搬物を対岸へ渡す事にあり、この頭上を何等かの物体が行き来していたのは、現場の様子から最早疑う余地がない。

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