教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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美利河峠(7)

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美利河峠(ぴりかとうげ)の取扱説明書

ニセコ・ルスツ・トマム・・・北海道に於ける片仮名の三文字表記地名は?3秒前、2、1、Q!と行き交う者にいきなり投げかけると、必ずと言っていいほど返ってくるのがメジャースキーリゾートと相場は決まっている。そこにピリカの名を挙げる者はまずいない。道民の内外を問わずピリカってどこ?ピリカって何?というのが現実的な反応である。その影の薄さは道路的にも然りで、美利河峠越えを目的として国道を走る者は皆無に等しい。だがそれが単なるドライブやツーリングではなく、旧廃道の探索となると話は別だ。一般に美利河峠に古道筋は存在しないとされ、旧廃道に言及した記事を目にした試しはない。事実拡張に次ぐ拡張で形成された現在の峠付近に、並走する別ルートは実在しない。但しその前後には失われた切り通しを補って余りある長大路線が森の奥深くで息を潜めている。そこで目にしたのは道内各地に点在するメジャー物件に勝るとも劣らない涎もののレアな歴史道であった。完踏が叶わない絶望的な廃道の秘奥に見た超絶レア絶景と、辛うじて単車での踏破が叶う長大藪道の現況を余す事なく白日の下に晒す。

 

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◆旧道らしき路の入口付近はのっけから藪に包まれる

ワ〜ォ!

旧道らしき道筋への進入路はあっさり見付かったものの、そこはのっけから凄まじい藪に阻まれている。密度の濃さは折り紙付きだが、その大方が笹という点が唯一の安心材料で、足元には空き缶等のゴミが転がっている。

ここを何者かが行き来しているのは間違いない。ここ2、3年の間に人が分け入っているのは、空き缶の賞味期限や製造日からも読み取れるし、僅かばかりだが獣道のような細々とした空間が認められる。

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◆あっという間に激藪と化し進むべき方向を見失う

誰かが通った形跡というのは心の拠り所となるが、それはスタート地点から10m圏内に限られ、それ以上先は完膚無きまでの藪壁に閉ざされている。笹だから分け入るのは容易、その甘い考えが通用するのも初っ端だけで、いつの間にか周りは根曲竹に完全に包囲されていた。

僕は気付かないうちに根曲竹包囲網の渦中へと身を投じていたのだ。お天気キャスターの福井敏雄氏が生きていれば「檜山地方のパポイ峠は廃道じぇんしぇん異常アリでございましゅ」と警報を発していたであろうし、東京都在住匿名希望のオダさんからSOSのお便りを頂きましゅたのお約束のボケも忘れない。

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◆国道から進入して100m前後で既にこの有様

勢いに乗じ藪の大海を無邪気に漕ぎ進めてしまったが、振り返れば遥か遠くに青看が見え隠れし、今やそれも最大ズームでしか捉えられないほど距離を隔てている。これが廃道を抜けきる直前であれば安堵するシーンとなるが、藪との格闘劇はまだ始まったばかりなのだから気が遠くなる。

この地点で既に単車でのゴリ押しが不可能なほどに藪密度は増し、携行する大型鋏で根曲竹をカットせねば前には進めない劣悪な環境下にある。もう車両云々という状況ではない。徒歩でさえ前進を躊躇うほどの有様で、何等かの目的を持っていないと延々と続く激藪に根負けするのは必至だ。

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◆藪の大海原では頭上の空間が頼りで先が思いやられる

本当にこれが道跡なのか?そう疑いたくなるほど路の痕跡は失われ、周囲には目立った遺構も見当たらない。あるのは一定の高さを保つ根曲竹の群生で、道跡と山林の区別は全く付かない。従って進むべき方角が正しいのか否かさえ確信が持てない。そこで頼りとなるのが頭上の空間だ。

人工的に植林された山林を除けば、樹木はランダムに生えている。道跡にそっくりな空間も中にはあるが、基本長くは続かない。大木が好き勝手に生えている樹海で一定の空間が保たれていれば、そこは道跡である可能性が高い。頭上の空間に意識を集中する。その過程で僕は大いなる違和感を覚えた。

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◆唐突に巨大な空間が現れ道跡は完全に断たれている

無い、道が無いアルヨ!

根曲竹の刈り払いに夢中になっていた僕は、ある地点で鋏が空を切っている事実に気付いた。藪塊の先に未知なる空間が待ち構えている現実に動揺を隠せない。何なんだこれは?バシバシバシバシ!無心で根曲竹を刈り払う。

道路跡を忠実に辿っている確信が持てない現状では、周囲の藪を徹底して刈り払い、道跡か否かを精査するより他ない。道跡を見失っている可能性は十分有り得るし、本筋から大きく逸脱し崖淵に迷い込んだという線も否定出来ない。

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◆凹みの落差は激しく車両の通行云々という状況にない

現場は急傾斜でストンと落ち込んでおり、そこが道跡であるならば大陥没もしくは路盤崩壊といった感じで、徒歩でも前進は困難な急崖となっている。最早車両での踏破は絶望的で、かつてそこが車道であった事を証明する手立てはない。それ以前の問題として現場が車道であるとの確信には至っていない。

藪塊を迷走し単に崖っぷちに至っただけというオチもある中で、僕は現場を精査せんと可能な限りの藪を刈り払った。するとどうだ、空間の底にやまだかつて見た事のない代物が横たわっているではないか。僕は視界に飛び込んできた異物に生唾をゴクリと呑み込んだ。

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◆足下の遥か奥底に横たわる巨大なコンクリ塊

ドーン!

見えるだろうか?藪底に横たわる不自然な巨大造形物が。そいつは誰がどう見ても天然由来ではない。明らかな人工物である。素人でもコンクリ塊である事は瞬時に察せられる。

突如藪の大海に現れた巨大建造物に唖然茫然となったが、この一件で樹海を迷走していない事ははっきりとした。間違いない、ここに至る激藪は車道の跡だ。

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