教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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志戸坂峠(13)

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志戸坂峠(しとさかとうげ)の取扱説明書

トンネル有るとこ旧道アリ、この格言に従って物見遊山していると、旧トンネルもしくは廃トンネルに遭遇し、芋蔓式に鞍跨ぎの古車道を見出しと一粒で二度美味しい優良物件に遭遇する事は珍しくはない。ここ志戸坂峠は現トンネルに旧廃隧道に尾根越え路の親子三代に亘る路の遍歴が垣間見え、老若男女が歴史道を容易に体現可能な峠道は近代土木遺産の優等生である。現場には必要にして十分な案内板等が備わり、自身の四肢と五感を駆使した実体験と、日替わりで時のアイドルと寝る妄想に裏打ちされた超絶想像力によって、誰もが一定の満足感を得られるに違いない。そこに史料が加わればもうお腹一杯で、次行ってみよう!となる。しかし何かが足りない。消化不良の嫌な余韻がいつまでも尾を引くのだ。この後味の悪さを解消するには土壌に一歩踏み込んだ掘り下げが不可避で、土地の人間に成り切る勢いで峠道を再考する必要がある。再三に亘る現地訪問及び全方位的に現場を精査し、公に出る事のない志戸坂峠の核心に迫る。

 

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◆志戸坂トンネル開削時に失われた第一ヘアピンカーブ

二代目志戸坂トンネルの坑口上辺を旧旧道が掠めている。この事実を普段から志戸坂トンネルを行き来しているドライバーの多くは知らないし、遠方から訪れるサンデードライバーともなれば知る由も無い。道路の一部が消失しているが、線形的にそこは紛れもないヘアピンカーブの跡である。

婆ちゃん宅正面にみる反転に等しい急カーブが第一ヘアピンと仮定すれば、トンネル頭上の反転箇所は第二ヘアピンと見做す事が出来る。1m前後の段差で並走する二本の路は、本来は一本書で描かれる同一の路線であるが、ヘアピンカーブの消失と近年の舗装化の所為で一本道には見えない。

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◆山肌をL字状にカットされた未舗装路が直線的に続く

しかしながらその経路が坂根集落を貫通する旧旧道の続きである事は、樹林地帯へ突っ込んでみると一目瞭然である。斜面を削っただけのシンプルな形状ではあるが、杉木立を割る様にして2m前後の空間が森の奥へと続いている。手慣れた者であればそいつが車道である事はすぐに見抜ける。

L字状にカットされただけの平易な路面は、目立った障害もなく奥へと続いている。きっちりと枝打ちされた頭上の空間は広く、現場は意外にも開放感に満ちている。宛らハイキングコースといったところだが、木製の階段といい近年のアスファルト舗装といい、旧旧道は徒歩通行を想定した整備が成されている。

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◆山道の中央に30〜40年ものの巨樹が居座っている

足元には一切のタイヤ痕が認められず、近年車両が通り抜けた形跡は皆無である。ってかちょっと前まで現場は婆ちゃんの私有地に等しく気軽に行き来出来なかったし、今は今で階段を含むから車両の往来は厳しい。ってか路上には直径30cm前後の大木が隆起し完全に行く手を塞いでいる。

物理的に車両(特に四輪)の通行は不可能で、旧旧道のトレースは絶望的と言わざるを得ない。そもそも舗装はしたが転回場所の無い第二ヘアピンに般車で突っ込むのは無理がある。勢いで突っ込んだはいいが、最狭区となる婆ちゃん宅前を後退する際に鳥獣ネットを引っ掛けて、弁償云々となるのがオチだ。

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◆山道は緩やかに一定の勾配で直線的に駆け上がる

幾つかの悪条件が重なり四輪による旧旧道の踏破は限りなく困難となっている。僕はこの事を激しく憂う。何故なら軽トラが余裕で走破出来そうな路が延々と続いているからだ。人力車がやっとの際どい路ではない。腕に自信さえあれば普通車でもOK牧場のフル規格の路がそこにある。

単車でも車道である事を証明出来なくはないが、やや表現力に欠ける。この潤沢な道幅は四輪が入ってこそ説得力があり、入口が駄目なら出口からどうにかして自動車を搬入したい衝動に駆られる。しかし遅かれ早かれそれが叶わない悲しい現実を知る事となる。

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◆杉林を抜けると山道は急に勾配が増し幅員も狭くなる

見てくれ、この勾配のきつい狭隘路を。しばらくは未舗装林道を彷彿とさせるなだらかな路であったが、樹林地帯を抜け出るや否や未舗装路は豹変し、ブル道に等しい荒々しい路へと切り替わる。その勾配は最早車道規格に非ず、オフ車でも全く油断ならないトリッキーなコースと化している。

あんなに優しかった父さんはどこへいってしまったのだろうか?今僕の目の前にいる人物は酒と女とギャンブルに溺れ、呼吸をする様に嘘を付く救い様のない駄目人間である。一体全体何なんだこの変わり様は?それに似たようなショック度で迎えた最悪の現場で唖然呆然となる。

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◆ブル道の如し突貫で拵えた仮道は斜面の中腹で反転する

行ってみなけりゃ何も始まらないのでとりあえず突っ込んでみるが、良い子のみんなは絶対に真似をしてはいけない。45度前後の急斜面を削っただけの荒々しい路は想像を絶するものであった。途中にある折り返し地点まで止ってはいけないというのが挑戦者の絶対条件となっている。

止ったが最期谷底へ放り出されて酷く後悔する羽目になる。辛うじてその場に踏み止まったとしても、安全確実に降下出来る保証はどこにもない。この急崖のガレ道は歩行者の為に付けられたもので、車両による進入は全く想定されていない。従って五体満足での踏破はテクや場数に大きく左右される。

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◆昭和新道の敷設時に失われた第二ヘアピンの再生現場

幅員が1m程度有るので難易度はそれ程高くはない。勢いで克服する事は可能だ。しかし登坂中に後輪が滑るだとか、小石にヒットしてハンドルがブレるとか、勢いが足りなくて失速する等の理由で、取り返しの付かない事故に繋がる恐れがある。

何故こげなデンジャラスな道になっているのか?それは昭和新道を敷設する際に削り取られた旧道の前後を無理矢理繋いでいるからだ。かつてここにも折り返し地点があった。この危なっかしい現場、それが幻の第三ヘアピンである。

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