教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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物見峠(10)

★★★

物見峠(ものみとうげ)の取扱説明書

美作の県北域に県界を跨ぐ第五の車道を捉えるまでは、四天王の一角を成しそれなりの重責を担った峠道がある。現在は市町村道に区分される車両の通行を許す里道の峠が皆無という特殊なエリアで、日中の交通量がほとんど無いに等しいにも拘らず、主要一桁県道というポストに君臨し続ける路線、それが物見峠だ。我々はこの峠について何も知らないし、さして興味を抱く事もなかった。旧廃道でなければ道路に非ず、その拘りが当該物件を遠避けてきた。しかしこの峠を軽く扱えるのも今日までだ。この峠道無くして今日の黒尾峠は成立し得なかったし、物見峠を無視してこの界隈の交通事情は語れない。黒尾峠から始まる峠物語は右手峠と草の原峠を経ていよいよ最終章を迎える。道路の現況に囚われない歴史道の真髄を御覧頂こう。

 

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◆夜明け前の通行止区間に県道295号線経由で侵入

いやいやいやいや、それはないやろ〜

ガードマンによる突然の制止に僕は動揺した。すんなりと稜線の掘割を通り抜け国境越えを果たした僕は、出来の悪い鳥取県側の道程を精査しつつ、智頭へ向け着実に歩を進めていた矢先の出来事であった。

奴等は鉄パイプの簡易ゲートで路上を完全に封鎖しており、まるでADのカンペを棒読みするかの如し引き返せの一点張りで、配置されたガードマンは全く融通が利かない。どうやら終日全面通行止は本気のようで万事休すか。

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◆闇夜に浮かび上がる比較的新しいアスファルト舗装路

通行止の箇所は峠から鳥取県側に1km弱下った何でもないカーブで、その膨らみには複数の工事車両が待機していて、歩行者すら通さないという雰囲気に現場の空気は支配されている。そこから1kmも走らないうちに県道295号線にぶつかるはずだが、奴等は聞く耳を持たない。

ガードマンは台詞が「今夜が山だ」しか教えられていない来日して間もない外人の如し引き返せを繰り返す。ここで押し問答しても最後はキレて「ゲラウ!」と言われかねないので大人しく引き返す事にするも、アイルビーバック!と捨て台詞を吐き、ドングリを投げ付けて立ち去ったのは言うまでもない。

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◆最も暗く最も寒い夜明け前のふるさと展望台付近

これは豪い事になった。物見峠は終日通行止となっている。その期限は12月23日とされている。あまり知られていないが物見峠は冬季が全面通行止となり、12月から2月までの約3ヶ月間がクローズとなる。除雪が行われない峠道は春の雪解けまで車両による通行が事実上不可能となるのだ。

例え通行止が解除されてもそのまま冬季閉鎖となる公算が大でぐうの音も出ない。調査の続きは春以降に延期せざるを得ない現実を直視し僕は酷く落胆した。しかしこのまま黙って引き下がる訳にはいかない。何とかせねばと考えた末の打開策として、早朝バズーカならぬ早朝強襲を賭ける事にした。

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◆ふるさと展望台より宇波集落の家々の灯りを捉える

物見峠の朝は早い。午前3時に因美線の那岐駅前に到着した僕は、真暗闇の中ひとり自販機の前で缶コーヒーを一気に飲み干した。それでも暖まった気がしないのは、気温1度の寒中走行を強いられたからだ。5時着でも十分間に合う気がするが、念には念を入れての奇襲攻撃である。

工事現場の一番乗りを7時と見立て、そこから逆算して2時間前に現場入りして工区を精査し、日の出と共に取材を開始し、土建屋が到着する前に立ち去るという作戦だ。下手すると現場一番乗りの工夫は6時の可能性もあるから、最悪は取材時間が日の出からの僅か30分前後のギリギリ攻防だ。

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◆明るくなるのを待って峠寄りのゲートより調査を開始

突破口を県道295号線としたのには訳がある。県道6号線上の二箇所に屈強なバリケードを用意したとしても、脇道である県道295号線のガードは甘いと睨んだからだ。事実宇塚集落の外れに設置されたゲートは鉄パイプの簡易ゲートで、簡単に退かす事が出来た。

取材対象は通行止区間のみの道路情報と限定的で、ゲートの外に居れば御咎めなしであるから、一番工夫の到着前に道路情報を盗み出せば何事も無かったかのように涼しい顔でいられる。ヘッドライトだけを頼りに林道と何等遜色ない真暗闇の県道295号線を駆け上がる。

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◆歩行者との離合が困難な大型車一台がやっとの狭隘路

県道6号線との交点を迎えると間髪入れずに左折し、昨日ガードマンにどんぐりを投げ付けたナッツリターン現場で工区の起点に至る。南側ゲートを確認し直ちに反転すると、今来た道を一目散に舞い戻る。県道6号線と県道295号線の交点を素通りし、北側のゲートへと直行する。

智頭寄りのゲートは県道同士の交点から1km強の至近距離にあった。こうして真暗闇を手探りで工区の全容を把握した僕は、まだ夜明け前の薄暗い森の中でシャッターを切り続けた。とりあえず工区内を一巡し最低限の道路情報を押さえると、もう一巡すべくナッツリターンの原点に立ち戻った。

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◆山道は部分的に改修されていて幅員は広狭繰り返す

今度はバッチリだ。フラッシュを必要としないくらい現場は照度を増し、稜線上からは今すぐにでも太陽が顔を出す勢いだ。だがこれ以上の長居はガテン系生命体との未知との遭遇という誰も望まない結果を招く。

情報を奪取したら現場から速やかに立ち去る、これが清く正しく美しいかまへんライダーの鉄則である。必要にして十分な光量を得られる状況下で、もう一度通行止区間を撮り直した僕は、7時前に南側ゲートを擦り抜け危機的状況は脱した。

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