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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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物見峠(7) ★★★ |
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物見峠(ものみとうげ)の取扱説明書 美作の県北域に県界を跨ぐ第五の車道を捉えるまでは、四天王の一角を成しそれなりの重責を担った峠道がある。現在は市町村道に区分される車両の通行を許す里道の峠が皆無という特殊なエリアで、日中の交通量がほとんど無いに等しいにも拘らず、主要一桁県道というポストに君臨し続ける路線、それが物見峠だ。我々はこの峠について何も知らないし、さして興味を抱く事もなかった。旧廃道でなければ道路に非ず、その拘りが当該物件を遠避けてきた。しかしこの峠を軽く扱えるのも今日までだ。この峠道無くして今日の黒尾峠は成立し得なかったし、物見峠を無視してこの界隈の交通事情は語れない。黒尾峠から始まる峠物語は右手峠と草の原峠を経ていよいよ最終章を迎える。道路の現況に囚われない歴史道の真髄を御覧頂こう。 |
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◆高規格の松箒橋と土台ごと消え失せた先代の松箒橋 知和駅を過ぎても加茂川の規模は縮小するどころか勢力は全く衰えていない。激流をやり過ごす為の県道の松箒橋は面目を一新しているが、平成22年までは今の橋とは重ならない位置に別の橋が架かっていた事が前後の様子から分かる。旧橋が架かっていたであろう箇所は完全に空を切っている。 先代の姿は影も形もない。現場は大幅な地形改変が成されており、過去の様子を知らない者が以前の状態を想像し難い程に、線形は大きくすり替えられている。だが対岸に遺された遺品の数々が、現在の橋とは干渉しない別の橋が加茂川を跨いでいたのだと主張する。 |
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◆旧松箒橋の先に待つ商店とデリネーターが県道を主張 加茂川の対岸で寸断される行き止まりの路の第一人家の壁面には、何故か企業の広告がベタ貼りされている。誰も通らないはずの路で情報発信し続けている不可思議さを解消する手立てはひとつしかない。大型車一台の通行がやっとの狭隘路が一時代前の県道であるという事だ。 その証拠に路肩には岡山県と刷られたデリネーターが乱立している。かつてはこの通りを好むと好まざるとに関わらず全ての車両が狭隘路の通り抜けを余儀なくされた。その時代の松箒橋は恐らく古風なコンクリ橋であったと思われる。バイパスの敷設に伴い役目を終えた旧橋は過去のものとなった。 |
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◆県道6号線旧道と十字で交わる県道118号線 新設されて間もないバイパス沿いに人家は無く、ほぼ全ての家屋が旧道沿いに密集している。かつては集落のコンビニ的存在であった唯一の商店も閉店して久しく、白昼の小集落はゴーストタウンの如し静まり返っている。但し県道同士が交わる交点付近は数分に一台の割合で車両が行き交っている。 河合集落内で唯一認められる大規模な十字路は、かつての県道6号線に県道118号線がぶつかっていたT字路の跡で、阿波温泉へと通じる県道118号線は今も一定の利用率がある。しかし河合集落は単なる通過点でしかなく、年間を通して一定の交通量は見込めるものの県道同士の交点に活気は無い。 |
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◆河井集落東側の新旧道交点でセンターラインが途絶える 河合集落でしばし車の流れを見ていると、大半の車両が県道118号線へと折れ曲がり、峠方向へ直進する車両は極めて少ない事が分かる。峠を越えて鳥取方面へ抜ける車両が余程珍しいのか、或いはスーパーカブ以外の単車を目にするのが稀なのか、峠へ歩を進める僕を村人は好奇の眼差しで見ている。 後にそれが通行止の峠に無駄足を運ぶ愚か者に対する冷やかな視線である事に気付くのだが、この時の僕はまだ鼠返しを喰らうだなんて想像すら出来なかった。県道に入ってすぐに迎えるデジタル表示板には確かに物見峠通行止のアナウンスが成されてはいたが、単車ならどうにかなるさ!と高を括っていた。 |
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◆県道は一時的に狭く深い谷底を這う様にして進む 大体この路線は主要一桁県道であるから、終日全面通行止の措置が取られるはずがない。物見峠を封鎖すれば加茂や阿波温泉に用のある鳥取県側の者は、国道53号線を伝い日本原を経由する大迂回を強いられるから、何等かの措置が講じられて然るべきと勝手に思い込んでいた。 昼夜を問わない急ぎの工事であれば終日全面通行止も有り得るが、このような僻地では基本的に夜間は解放しているであろうし、昼の休憩時及び夕方5時以降と朝8時前であれば物理的に通り抜けは可能であるし、単車ならOKと融通を利かせてくれる現場監督も少なくない。 |
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◆視界が大きく開けた開放的な場所が峠下の物見集落 だが楽観視する僕とは対照的に交通量は限りなく皆無に近付きつつあった。河井集落を過ぎると県道が通る谷間は急激に狭まり、日中は数時間しか日差しが届かない薄暗い深谷で、県道は頭上を大型車ギリギリの高さで掠める鉄橋を潜り、しばらく走ると踏切で交差する。 その辺が峠下に当る物見地区で、峠名にも冠される数十軒のまとまった集落であるが、何故か駅舎は設置されていない。河井集落の外れにある美作河井駅が県内最後の駅で、次の停車駅は県界を跨いだ先の那岐駅となっている。平均駅間距離が4kmに満たない因美線で10kmは結構な距離だ。 |
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◆物見隧道をパスした直後の緩斜面に人家が密集する 3000mオーバーの物見隧道を含んでいるのは分かるが、隧道の前後どちらかに停車場を設置する、或いはトンネルの前後共に停車場を設けても罰は当たらない。しかし現実として峠の前後は10kmに及ぶ駅舎空白エリアとなっている。 物見集落外れで畑仕事に精を出すおいちゃんは語る。河井駅まで駅ひとつ分の距離があるので不便なのだと。またバスも阿波の方へ行く便はあっても物見へ来る便は無いので、昔からどこへ行くにも苦労を強いられたのだと。 物見峠8へ進む 物見峠6へ戻る |