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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>岡山>犬畑峠 |
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犬畑峠(16) ★★★★★ |
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犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書 旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。 |
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◆ やり過ぎたのは、あなたのせいよ〜♪ これは誰がどう見ても刈り払い過ぎの感は否めない。本来は見渡す限り路の全てが笹で満たされ、そこをザワザワと掻き分けて進んでこその廃道踏査であるが、パッと見三流の登山道程度の落ち着き様にある。 こうなってしまったのも機械化のせいで、道具を持ち込むといとも簡単に藪壁が撃破出来るのをいい事に、ついつい勢いでガンガン攻めてしまい、気が付くと画的に非常にまずい状況になっている場合がある。 |
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◆ 機械の導入はちょっとした産業革命を齎したが、油断するとハイキングコース宛らの快適な路に生まれ変わる副作用があり、意図的に手抜きをするという微妙な調整を強いられ、なかなか思う様にはいかない。人一人分の通路を確保するというのは、思っている以上に難易度が高い。 自分の正面を人一人分の幅で刈り払っても、足元だけがスカスカになるだけで、前後左右から覆い被さる植物の群れを完全に断ち切る事は出来ない。かといって両サイドを拡張すると想像以上の無駄な空間が出来上がってしまう。なかなか丁度いい塩梅にはならないのである。 |
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◆ 但しこの現場に関しては藪の強弱云々関係無しに強力に藪を刈り払う必要性があった。この先にスズメバチの巣があるのだ。正確にはあったというべきであるが、それも何年も前の話で今季はどこにあるか分からない。蜂は同じ箇所に巣を作らないという習性がある。 地面に巣を作る事も有り得るから、どこで地雷を踏んでもおかしくない状況は、一歩一歩が勝負であると言っても過言ではない。特に僕みたいに死亡フラグが立っている者にとっては、廃道踏査は死亡遊戯以外の何者でもない。今すぐブルース・リーに逢えるかも知れないのである。 |
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◆ 以前の僕は落ちていた棒で足元を突っ突いて安全を確かめていたが、今は文明の利器で以て足元にあるありとあらゆるものを有無を言わさず吹き飛ばす。しかしスズメバチが威嚇してきても全く気付かずに危険区域に突入してしまう可能性があり、新兵器が諸刃の剣である点は否めない。 それでも効果大と思ったのは、この場面の藪底に潜んでいたマムシが身の危険を察知し、自ら避けてくれた逃避行を目の当たりにしたからだ。これが手刈りであったらと思うとゾッとする。また徒歩による事前調査等で足元チェックをせずに前進した場合も、どうなっていたか分からない。 |
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◆ マムシが潜んでいた地点は道路の2/3が崩壊した狭隘区で、結論から言ってしまうとそこが当山道の最狭区となる。残された道幅は僅かに単車一台分で、実用的な幅員は1mちょいと狭い。しかも川底に向かって斜めに落ち込んでいる唯でさえスリル満点のデンジャラスポイントだ。 そこにいつ何時飛び掛かってくるか知れないマムシが息を潜めるデスゾーンで、しかもその最狭区を跨いだ直後にスズメバチの巣があるという最凶区である。この場面だけで言えば南米の密林とほとんど遜色ないし、最狭区の擦り抜けに失敗して重傷を負う方がリスクが少ないような気がしないでもない。 |
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◆ 四輪の通行を二度と許さぬ最狭区は、徒歩による踏査でも酷く危険な印象だが、幸いな事にかつて存在した巨大なスズメバチの巣は跡形も無く、前回のように偵察蜂に威嚇されるような事もなかった。最も恐れていた区間を通過した事で、視界が一気に開けた感がある。 上を見上げても足元を覗き込んでもほぼ垂直の断崖路で、道床ごとごっそりと持って行かれていると御仕舞だが、灌木と雑草が絡み合う密度の濃い藪が続いているので、まだしばらくは行けそうな雲行きだ。いつ寸断してもおかしくない状況だが、そんな道中にもひっそりと遺構は眠っていた。 |
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◆ 見てくれ、足元の道床側面を覆う石垣を。落差1m程と規模は小さいが、今この瞬間も自身に課せられた任務を遂行し、見渡す限りそこから脱落した者はなく、また今後崩壊しそうな兆候さえ認められない。 上下を垂直壁に阻まれた断崖路を、少しでも安全にと施行されたのであろう。その擁壁は戦争がとっくの昔に終わった事を知らされぬまま、粛々と与えられた任務を全うする日本軍の残党兵に重なって映る。 犬畑峠17へ進む 犬畑峠15へ戻る |