教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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犬畑峠(15)

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犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書

旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。

 

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この年の8月20日未明に広島市に激甚災害を齎した不穏な雨雲は、列島各地に筆舌に尽くし難い爪痕を残したが、その行方が気になって仕方なかった。というのも思いっきり中央分水嶺に被っている懸念があったからだ。ウイークポイントが破壊されていなければいいが、その不安は見事に的中した。

犬畑峠は中央分水嶺ではない。しかし列島を二分する屋根の前後に位置する峠群が無傷で済むはずもなく、前回見た光景と同じ場所とは思えない分岐点の変貌ぶりに、底知れぬ自然災害の脅威を覚えずにはいられない。それでも男ならやらねばならない時が来る。

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おんどりゃぁ〜!

廃道&バイク、この分野で僕の右に出るものは5人しかいない(いるんかい!)5年後、10年後、もっと先の20年後に至っても、僕は今と変わらぬトリッキーな動きで、廃道を加齢に駆け抜けるだろう。加齢にだ。

テクニック勝負では全国に5万といるモトサピエンスの誰一人にも勝てやしない。彼等なら崩壊箇所の足場固め等の小細工をせずに、この局面を磨き上げた腕一本で華麗に克服出来るだろう。華麗にだ。

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テクニック云々に於いて彼等と僕では天と地ほどの差がある。10年に亘ってマイケルチャンの指導を受けてきた選手と、同じく10年に亘りチャンカワイのレッスンを受けてきた者が、同じ舞台に立てるはずがない。

マイケルチャンは言う。コートに入ったら「お前は邪魔な存在なんだ!という決意が必要なんです。優勝するのはお前じゃない、俺だ!という気持ちでなければ戦う前に負けています。」一方チャンカワイは携帯電話で僕にこう助言する。

飛べるんじゃね?

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確かに腕のあるライダーなら助走無しで飛越出来るに違いない。その程度の障害である事は百も承知だ。それでも突貫工事で路の修繕に拘るのは、この行為が競技ではないからだ。互いの技を競い合うのであれば、タイムを一秒でも短縮するのであれば、テクニックは必要不可欠であろう。

しかし目的が失われた路の踏査である以上、テクニックを駆使して難所を克服する事にたいした意味は無い。現場には技量を審査する者もいなければギャラリーもいない。そこでいくらスーパーテクニックを披露したところで、自己満足に終始するのがオチである。

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幅1m前後の川なら助走無しのジャンプで克服出来るし、丸太越えなど朝飯前、岩塊が道を塞いでいれば乗り越えてしまえばいい。単車を手足の如し操るトップライダーならそう答えるだろう。しかし倒木は一本や二本ではないし、行く手を遮る川が大河という場面も少なくない。

そういった究極の場面に直面した時、彼等は何と答えるのだろうか?どうぞ丸太越えして下さいと言わんばかりに、倒木が一本だけ横たわっているシチュエーションなんてそうそう無い。単身ではどうにもならないような巨木が折り重なるようにして倒れているのが一般的である。

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路を遮る川も落ちたら二度と這い上がれない深淵であったり、橋が落ちていて二進も三進も行かない場面が多々ある。そういった致命的な大障害の前ではどんなテクも利かない。但し障害を克服する方法はある。それが倒木の撤去であったり、失われた路の修繕、或いは迂回路の造成である。

道は走るものではなく造るものと言うと頭がおかしいと思われるが、一時代前の路は地域住民の手で整備するのが当たり前で、何かあってもいつか誰かが対処してくれるのが当然という風潮は、ここ50年くらいの新常識である事を団塊の世代より下の者は知らない。

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路の両脇から植物が浸食すれば草刈りをせねばならないし、土砂崩れがあれば村人総出で退かさねばならず、そういった行事は学校を休みにしてまで実行され、それはどの地域に於いても常識的な慣習であった。

僕は古来継承されてきた慣例に従っているだけで、何も特殊な行為をしている訳ではない。受益者たる自身、即ち山道を行き来する者が率先して路を整備するのは当然で、長期戦も辞さない覚悟で僕はいつだって玉金全力投球で事に当っている。

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