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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>岡山>犬畑峠 |
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犬畑峠(14) ★★★★★ |
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犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書 旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。 |
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◆ 肉眼ではいまいち確証が持てなかったので、被写体をズームで捉えその場で確認したところ、やはり僕が捉えた異物は石垣である事が判明した。石垣の存在に驚いたのではない。それが築かれている場所が場所だけに僕は驚きを隠せない。そいつは急斜面の中央付近にのみ存在するのである。 道路と谷底との高低差は15m前後に及ぶが、石垣はその丁度中間付近の谷底から5m程の高さに底辺が位置し、上辺は道路から同じく5m前後の位置にある。急斜面の中間に浮かぶように並べられた巨石群は、どうやればそうなるのかさっぱり見当が付かない。 |
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◆ 鳥取には投入堂というオーバーハングの壁面に設けられた不可思議な建造物があるが、どうやって建設したのか分からないという点で、第二ヘアピンの直前にある宙に浮かぶ石垣は大変興味深い。石の形状及び積み方は対向の石垣と瓜二つで、両者が同時期の施行である事は疑う余地がない。 問題は石垣が設置されたポイントで、通常は足元の直下に認められる擁石が、5mほどストンと落ち込んだ急崖の真只中に浮いているのだから首を傾げざるを得ない。一際異彩を放つ宙に浮いた石垣を捉えた直後に、雑草に埋もれつつある待避所跡と思わしき膨らみが現れる。 |
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◆ そこに単車を置きしばし眺めるも、宙に浮く石垣は場違いな異物としか思えない。何なんだこの仕様は?はっきりと意識した訳ではないが、謎めいた遺構を捉えた僕はすっかりこの道の虜になっていた。あれほどの大胆不敵な石垣を設けるという事は、そんじょそこらにある古道とは明らかに異なる。 これはもしかするともしかするぞなもし!現場は興奮の坩堝と化した。大型車一台を楽々と通す余裕ある幅員、それを考慮した緩やかな勾配、連続ヘアピンで高度を一気に稼ぐ線形、石垣による強固な擁壁、豊富な離合箇所、僕が想像する以上の大道を予感させるには十分なスペックだ。 |
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◆ 10年前の僕では脱出するのに精一杯であったと思われる山道は、今や道路考古学に於ける貴重な調査対象物で、現場には歴史道特有の香ばしい匂いが漂っている。何だか年代物のワインを入手したかのようで、長い時間をかけゆっくりと堪能したい気分に駆られる。 しかし実際問題としてそんな流暢な事は言っていられない。というのも路面状況は再び悪化の一途を辿り始めたからだ。僕は特殊な石垣の発見で有頂天になっていた。気が付けば刻一刻と現場の状況は変化しており、いつの間にか路面のほぼ全てが植物に覆われていた。 |
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◆ しかもその先に待っていたのは致命的な障害であった。僕の行く手には本来あるべきものが無い。なんと道路全体がすっぽりと抜け落ちているのだ。しかもその落差は半端ではなく、一度川底に単車を落としたが最期、独力では引き揚げ不能な深淵となっている。 これには流石に参った。数年前に訪れた際には分岐点らしい真っ当な広場が認められた地点で、そこは一息入れる休憩場所であり、あっさりと通過するつもりでいたからだ。しかし今やそこは攻略不可能な大障害と化している。無理もない、広島の土砂災害を引き起こしたのと同じ雨雲が通過したのだから。 |
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◆ この程度で収まったと捉えるのが妥当で、本件を成立させるには何とかこの局面を打開する方法を模索せねばなるまい。かつて土管が埋め込まれていたか暗渠が設けられていた川筋は、今や完全に道路を二分している。これではどう足掻いたって道路跡を踏襲する事は出来ない。 幸いにも川幅は1.5m前後と短い。足場を組む際に用いるアルミ板があれば何とかなる。しかし現場にそれらしき板は見当たらない。川幅が広ければ諦めもつくが、短いだけにもどかしい。何とかならないものか?僕は川の上流に目を向けた。そこには一箇所だけウィークポイントがあった。 |
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◆ 川底との高低差が一瞬だけ縮まるスロープ状の河原を僕は見逃さなかった。勿論そのまま突っ込めるほど甘くはない。しかしすっちゃかめっちゃかの現場を整備する事で、通路として成立する可能性がある。 幸いな事に現場には落差を解消する為の豊富な石ころがある。路上に散乱する石を川に放り投げ川底を引き上げると同時に、天然のスロープを整備し渡川可能な態勢を整える。あとは実行あるのみだ。 犬畑峠15へ進む 犬畑峠13へ戻る |