教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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犬畑峠(12)

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犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書

旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。

 

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切り通しの真只中で路は下りへと転じるが、早くもその付近から路面は地肌丸出しで、植物が全く根付けずにいた。山道全体が薄らと満遍なく湿っていて、湿性植物しか繁殖出来ない環境にあるが、何等かの理由でそこまで勢力を伸ばせなかった事で、地肌だけが思いっきり晒されていた。

犬畑峠は蒜山側と湯原側に雨水を二分する分水嶺で、その源流水は切り通しにあると言っても過言ではない。葉先から滴り落ちる水滴を掻き集めてようやく川の原型が成立するという小規模なものではなく、僕の足元には水の流れが確認出来るほどの水量を誇る。

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その規模は切り通しの直後にして排水設備が路を横断し、そうやって水の流れを制御しなければ山道そのものが川床となりかねない懸念がある点からも明らかだ。当山道には常時豊富な水源がある。その一点だけで茶屋が成立するには十分な要素であるが、そこに更地が認められるのである。

但し西日本のスキーのメッカである蒜山の麓という場所が場所だけに、完璧な物証でもない限り茶屋があったとは言い切れない面がある。しかし標高だけでみればその昔は茶屋が営業していた黒尾峠や四十曲峠と何等遜色なく、茶店があっても何等不思議でない素地はある。

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切り通しは狭く普通車同士の交換も叶わないが、その前後には待避所として使用していたと思われる膨らみが認められ、それは南側にもきっちりと用意されている。待避所は大型車同士の擦れ違いを許すもので、普通車が数台路駐可能なその膨らみだけ取り上げれば、当山道は至極真っ当な路に映る。

更にいつの時代に設置したのかは定かでないが、路上を横断する排水設備が功を奏し、南側の待避所以降路面は非常に穏やかな雰囲気を保っていて、そこは宛らハイキングコースの様相を呈し、いつ何時目の前にリュックを背負ったハイカーが現れてもおかしくない状況にある。

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それどころか路面は山道の入口以来の良好な状態で、北側の倒木群は人為的な嫌がらせかと勘繰ってしまうほど障害物は何もない。落石のひとつでも落ちている方が自然だが、それらが意図して取り除かれているような、どこかの組織の管理下に置かれているような好環境にある。

この好況を手放しで喜ぶのはズブの素人で、僕は北側以上の警戒感を以て事に当った。今や山道の障害物は皆無に等しく、人為的且つ定期的にメンテナンスされている可能性が大だ。いつ対向からいつパトロール車が現れてもおかしくなく、安全地帯に滑り込んだという見方が出来なくもない。

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実際に次の待避所では巡視路が左右に伸びている事から、車両でここまでやってきて徒歩による縦走というのも十分に有り得る話だ。待避所にタイヤ痕は認められないので、頻繁には利用していないのかも知れないが、軽トラが楽勝な路の整備状況から関係者と偶然八合う可能性も否定出来ない。

そうなると「お前どこから入ってきた?」「目的は何だ?」「人の話を聞く時は手を耳の後ろに持っていくが、某県議は耳の前に持ってきていたのお前気付いたか?」などの質問攻めに遭うだろう。湯原側の出入口が強固なゲートであれば尚更で、そうなると警察沙汰も覚悟せねばなるまい。

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一時期は人一人分の幅まで狭まった山道であるが、今や見事なまでに息を吹き返し、北側の進入路以来の頗る良好な出来にある。このまま順調に推移すれば峠道はあっさりと克服する事が叶うだろう。問題は最後の最後に待ち構えているゲートを突破出来るか否かだ。

ゲート脇を擦り抜けられるかどうかはケースバイケースで、こればかりは行ってみなけりゃ分からない。僕は草陰から目を凝らし下界からの車両に常に意識しながら前進する。その過程で谷の向かい側を走る折り返してきた山道の続きに、不自然な異物を捉えた。それを拡大したものがこれだ。

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ドーン!

正真正銘の石垣である。それも道路の道床側面に築かれたかなり立派な代物だ。一部が苔生し木々の隙間と相俟って目測では確認し辛いが、目地ははっきりとしている。個々の石は均一とは言い難いが、同じような固体を宛がっているように映る。ビジュアル的には規格統一される一歩手前という感じで、完成度は高く原始的な印象はまるでない。そこから導き出される年代は、ズバリ昭和黎明期であると僕は考える。

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