教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

トップ>廃道>岡山>犬畑峠

犬畑峠(11)

★★★★★

犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書

旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。

 

DSC03194.jpg

御覧の通り犬畑峠には人工物が何も無い。道路が存在するから広義には人工物が認められる訳だが、道路以外のもの、そう例えば案内標識とかカーブミラーとかガードレールとか電柱といった一般道なら大抵は視界に入る物体が一切認められない。それ等が有るのと無いのとでは大違いだ。

平坦路という遺構そのものが車両の往来を想像させる訳だが、そこには法律で義務付けられている設備が少なからず存在する。またそれ以前のものとして土木構造物として成立し得る為の要件が満たされていなければおかしい。例えばそれは側溝であったりトンネルであったり橋であったり法面等となる。

DSC03195.jpg

山道は単に山肌をL字状にカットすれば終わりという単純な話ではない。何等かの形で排水設備を設けなければ、路面の砂利は洗い流され岩盤が剥き出しとなる。それに近い状態の放置プレイ林道を走った経験があるが、まともに走れたものではない。その究極の姿が愛知の広見林道で異論はあるまい。

ああならない為にも日頃のメンテナンスは必至だし、そもそも多少の雨でもびくともしない真っ当な排水設備がないとおかしい。それは路盤や法面に宛がわれた石垣群で、古来城壁の排水が必然であったように、それを転用した道路の擁壁群が大規模且つ大胆に設置されて然るべきである。

DSC03196.jpg

水をコントロールする事の重要性は大昔から唱えられてきた。道路とて例外ではない。その主たる対象物が道路脇或いは足元に埋設された石垣で、どげな古道でも大なり小なり大概は確認出来る。しかしこの峠道には肝心の石垣が見当たらない。正確を期せば皆無という訳ではない。

切り通しの南側にほんの僅かだが人工的に組み上げたであろう石垣を捉える事が出来る。しかしそれは上下左右1m程度の極小規模で、掘割の斜面全体は地肌剥き出しとなっている。それが崩壊した石垣の生き残りと捉えられなくもないが、そうであるなら現場には巨石が散乱していていい。

DSC03197.jpg

しかし切り通しはヘナリワンの通過を許すのみならず、物理的に四輪でさえ通してしまう余裕がある。切り通しの壁面を見る限り一度埋め込まれた巨石が外れた際の窪みは確認出来ない。従って掘割の壁面はその昔から地肌丸出しのV字を描いていた可能性が大だ。

目立った道路遺構が全く確認出来ない中で、唯一際立っているものがある。それが最盛期は大型車の通行をも許したであろう山道の幅員だ。藪に埋もれていたり一部が川になっていたりして路面状況が判然としないが、当山道は間違いなく大型車の通行を許す規格にある。

DSC03198.jpg

だがしかし御覧の通り最狭区は単車一台分と狭い。その足元は泥田状でゴアテックスシューズでも踏み所を誤れば直ちに濡れテックスシューズと化すヌタ場だ。しかしそこは両サイドから麻科の植物に挟み打ちにされているからで、ジムニーや四駆の軽トラなら強引に割って入れなくもない。

スタックしない保証はどこにもないが、体力が無尽蔵の10代20代であればやってやれない事はない。元々大型車を通した真っ当な路と思えば恐るるに足らずだ。しかし現況を目の当たりにすれば誰だって怯む。物理的には楽勝なチャリダーでさえ一瞬はフリーズする光景だ。

DSC03200.jpg

しかしその障壁を突き抜けると、涎ものの美味しい光景が待ち受けている。見事突破した者だけに与えられる御褒美は、見渡す限り障害物の無い小春日和の道程で、そこはハイキングコースの様相を呈す。思い返してみれば路面にタイヤ痕は認められないが、靴跡だけは無数に付けられている。

即ち当山道を今でも多数の人間が行き来しているのだ。単車での侵入を煙たがる人間との遭遇は厄介だが、そうでない場合は心強い存在となる。何かあったら助け舟を出してくれるかも知れないし、この先の未知なる区間について思わぬ情報が齎されるかも知れない。峠そのものに関する情報も含めてだ。

DSC03201.jpg

山菜取りやハイキングが目的のジジババとの遭遇が有り得るが、叶うなら地元生え抜きの古老との接触が望ましい。今の所当山道に纏わる情報は皆無に等しく、現況から考察するより他ない。

仮に犬畑峠に茶屋があったとすればそれは南側で、進行方向左手の藪に埋もれた更地が特に怪しい。ただ峠には小規模集落が存在した可能性も否定出来ない。何故なら頂上付近には有り余る平坦地と、豊富な水源があるからだ。

犬畑峠12へ進む

犬畑峠10へ戻る

トップ>犬畑峠に関するエピソードやご意見ご感想などありましたら一言どうぞ>元号一覧