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教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
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トップ>廃道>岡山>犬畑峠 |
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犬畑峠(10) ★★★★★ |
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犬畑峠(いぬはただわ)の取扱説明書 旭川の源流にして県下最大の貯水率を誇る湯原湖は、今日現在中国地方最大の水瓶として広く知られる。その知名度は今や全国区で、ダム直下の川原に湧く天然の湯に入らんと、休日ともなれば観光客がわんさと押し寄せ、芋洗い状態になる事も珍しくない。背後の巨大建造物と天然温泉のコラボは、日本広しと言えども滅多に御目にかかれるものではなく、有り得ないシュチュエーションは一見の価値がある。だが中国地方最大の人造湖の魅力は温泉だけに留まらない。ほとんどの人は気付いていないが、実は道路史的に大変興味深いエリアで、湖底には難破船の金銀財宝に匹敵する御宝道が眠っている。その片鱗は方々に散らばっており、全てを白日の下に晒した暁には、湯原・蒜山界隈の常識が覆るのは必至だ。新見夏の陣で大捕物を果たした今、県下最大のラビリンスと言っても過言ではない湯原湖。その牙城を崩すのは有名無実の峠と呼ばれて久しい犬畑峠。初動調査から実に3年の月日が流れたが、現場では我々の想像を凌駕する展開が待ち受けていた。当レポートは将来的に潜水艦を導入するきっかけになるかも知れない希有な機会である事を付け加えておこう。 |
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◆頂上の一歩手前でダブルトラックは忽然と消え失せる ムムっ!消えている。ある地点を境に四輪のタイヤ痕は完全に途切れていた。そこは深々とした切り通しの中央付近で、左右の急斜面がピークを打っている事からも、ほぼ掘割のど真ん中と言っていい。そこは多くの挑戦者が第一目的とする場所で、僕はその真只中にいた。 エンジン駆動車にとっては手の届かない近くて遠い場所、そう、ここが噂の犬畑峠である。ツーリングマップルに平然と記載される峠に、今回僕は苦もなく到達する事が叶った。今季に限っては頑張ればプリウスでも到達可能で、恐らく二度と撮れないであろうショットが期待出来る。 |
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◆路面が緑一色に染まる切り通しの真只中 現場は明地峠や四十曲峠と同じ匂いがする。ビジュアル的にもそうだが、現場の空気が全く澱んでいないという点で一致する。もう何年も車両が通り抜けていないのは、無傷の路面状況からも明らかであるが、仮に近年車両の往来があったとしても、それを完全に掻き消してしまうほどの清涼感に包まれている。 これが現役の道路だとそうはいかない。車窓から投げ捨てた空き缶やタイヤ痕等が使用感を漂わせ、ちょっとした差異ではあるが注意深く観察すれば誰でも気付くものだ。この峠にはそういった生活感が一切漂ってはいない。まるで静止画の中にいるような感じなんである。 |
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◆車両が通過した痕跡が認められない切り通しの下り 木々が成長中であるから時が止っているという言い方は適切ではないが、道路の進退で言えば完全に停止している。ってか死んでいるに等しい劣悪な環境にある。現役の道路しか走った経験のない現代人からすれば、十人が十人廃道なう!とツイートする完璧な逝かれ道である。 藪の濃淡が問題なのではない。地表を覆うほぼ全てのものが緑一色である事実は驚異以外の何物でもなく、人々はその恐るべき光景に戸惑いを隠せない。そりゃそうだ、手入れを怠った林道でさえここまでにはならない。どんな酷い道でも先駆者の轍跡が薄らと残されている。 |
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◆染み出る山水を吸い込んだ路面は一部が泥濘と化す ところがこの現場には先行者の形跡が全くと言っていいほど認められない。巨大な掘割があるのだから何者かが拵えたというのは理屈としては分かる。しかしそれを利用したであろう者達の往来の痕跡がまるでないのだ。僕が追ってきた轍跡も切り通しの中央を境に完全に途絶えている。 彼等は掘割のど真ん中で忽然と消え去ったのであろうか?それとも勢いよく宙に浮いて飛び立っていったのであろうか?そのどちらでもない事は、轍跡が微かにブレている点からも明らかだ。ダブルトラックは僅かだが歪んでいる。それはほぼ同じ軌跡を辿ってバックした際に生じる歪みだ。 |
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◆地肌丸出しの路面にタイヤ痕は一切認められない そう、一旦掘割の最深部へと身を沈めた四輪は、頂上に轍を刻むや否や、そのままの体勢でずるずると後退を始めたのだ。今日はこれくらいで勘弁しといたる!と威勢の良い言葉を発したか否かは定かでないが、彼等が大なり小なりチビっていた事は現場の状況を見ればよく分かる。 頂上を境に路上を席巻していた植物群は徐々に鳴りを潜め、未舗装の路面が露わとなる。そこには大小様々な石が無造作に置かれ、全く手入れが成されていない事を主張している。緑の絨毯と化している掘割の北側では見え難かった路面状況が、南側では瞬時に把握出来る状態にある。 |
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◆切り通しの先は荒れるに任せた酷い環境にある まるで引き返せと言わんばかりに意図的に散乱したかの如し倒木群と、どこからともなく流れ出る山水によって泥濘となった路面が相俟って、ドライバーのヤル気を極端に削ぐ究極の仕様となっている。多少の経験があればまだ前進は叶姉妹であるが、それも切り通しの端までだ。 緩やかな右カーブを描く切り通しの出口付近に、一度は鳴りを潜めたはずの藪が息を吹き返し、掘割以上の勢いで皆様のお越しを心よりお待ち申し上げておられるのである。この連続する障害物によって、大概のドライバーは心が折れる。ポッキーの如しポキっとな。 |
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◆切り通しの終盤で人工的に組み上げた石垣を捉える それはあくまでも廃道のイロハを知らない一般ドライバー目線で、全く別の角度からこの道を眺めると面白いものが見えてくる。僕は切り通しの南側終盤の左斜面の一部に、人工的な遺構があるのを見逃さなかった。 亀裂の入った天然の岩盤という見方が出来なくもないが、隙間だらけという点でその可能性には疑問符が付く。やはり人の手によって積み増しされたと考えるのが自然で、土砂崩れの防止が主目的の石垣との結論が妥当である。 犬畑峠11へ進む 犬畑峠9へ戻る |