|
教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜 |
|
|
トップ>旧道>岡山>杉ヶ乢 |
|
|
杉ヶ乢(1) ★★★ |
|
|
杉ヶ乢(すぎがたわ)の取扱説明書 中国地方の屋根を乗り越え、陰陽を繋ぐ主要連絡路の一角を担う国道53号線は、城下町津山を堺とする山陽側・山陰側共にそれなりの難所が待ち受けるが、一般的なイメージとして南は辛香峠、北は黒尾峠の両者が、他の追随を許さぬ最難所である事に異論はないだろう。その両横綱を筆頭に、中堅クラスの峠が前後する訳だが、大樹の陰に隠れ大方は世間の耳目を集める事とは無縁だ。枯れ木も山の賑わいと言ってしまえばそれまでだが、ここ杉ヶ乢も全国区の黒尾峠の前には霞んで見える雑魚峠で、正直煮ても焼いても食えそうにない取るに足らぬ物件だ。しかしどのような興行にも必ず前座があるように、大物を引き立てるスパイス役として杉ヶ乢の存在は欠かせない。本丸を攻める前の常套手段として、まずは外堀から固めよう。 |
|
|
|
◆奈義町内で完結する唯一のトンネル 杉ヶ乢、全く以てパッとしない峠だ。名称も平凡ならその存在すら限りなく希薄で、僕がこの峠を認識したのは、国道53号線の本格的な調査に着手して以後の事であり、それまでに幾度となく潜り抜けたこのトンネルの直上を、まさか先代が乗り越えていただなんて想像すらできなんだ。 我々のバイブルツーリングマップルの旧版には、トンネルを迂回する道筋そのものは記載されているが、そこに峠名は見当たらない。勿論トンネルあるとこ旧道ありの鉄則に従えば、いとも簡単に杉ヶ乢を捕獲できるのだが、紙上に浮かばぬ峠など峠に非ずとばかりに、僕は常時完全スルーを決めていた。 |
|
|
◆坑門は昭和中期製の無機質な量産型 川沿いをのらりくらりと並走する時間ばかり食う回り道を、トンネルでショートカットする箇所など世の中には五万とある。そうした物件のひとつだと勝手に思い込んでいた。しかし2004年のデジタル化に伴い、水面を割り突如浮上する潜水艦の如し何の前触れも無くそいつは僕の目の前に現れた。 それは忽然という以外に表現のしようがないほどの衝撃で、その存在自体も然る事ながら、紙面にその名を刻んでから数年間も気付かずにいた己のていたらくに愕然とした。勿論マップルに向かって早く言えよ!とツッコミを入れ、己に全く非が無いかの如し毅然とした態度で責任転嫁したのは言うまでもない。 |
|
|
◆大型車の相互通行を許すも歩行者軽視の設計 灯台下暗しとはまさにこの事だ。中央分水嶺を跨ぐ大本命に気を取られ、その他の全てが眼中になかったし、前後に隠れているやも知れぬ峠の存在など疑りもしなかった。今になってみればそれは無理もない話だ。何故ならば照準はこの先に待つ黒尾峠に向けられ、全神経がその一点に集中していたのだから。 津山方面から望むと、緩やかな坂を駆け上がった先で、地底への入口が待ち構えている。登坂車線を備える緩勾配の路が、これ以上ない高所へと上り詰めて穴蔵へと潜る様は、一般的な峠道のそれだ。今にして思えば、何故この線形で旧道の存在を疑らなかったのか不思議でならない。 |
|
|
◆鳥取側のポータルは装飾に凝っている ここ奈義トンネルは昭和44年竣工と、割と新しい部類に入る築浅物件で、御覧の通り平成生まれのヤングトンネルと見てくれは何等変わらない。奈義町木と奈義町花だろうか?ポータルには後付けと思われるオブジェが、無機質な量産型トンネルに彩りと潤い?を与えている。 このトンネルの欠点は歩道幅が決定的に狭い事で、人一人の通行しか考慮されていない狭隘歩道は、一般の歩行者用というよりも、点検用の作業通路と言った方が正しい。しかもそれが片側にしか用意されていないものだから、対向者が現れる=危険に晒されるという現状は、当然看過できない。 |
|
|
◆尾根との比高でトンネルの有用性を実感 まるで人なんか通らんのだよ明智君!と言わんばかりの勢いで設計した自動車専用トンネルのようだ。奈義トンネルの開通で峠を越す苦労からは解放された。しかし歩行者を筆頭とする交通弱者の犠牲の上に成り立っているトンネルは、手放しで歓迎できるものではない。 しかしながらこのトンネルが陰陽連絡路の時短に貢献したのは確かで、物流の観点にからすれば奈義トンネルは時代の要請に応える為には必要不可欠な存在であり、地域住民は多少の不便を強いられても、間接的にそれを補って余りある恩恵を授かっているのもまた事実なんである。 |
|
|
◆素人でも見誤らない津山側の新旧道交点 ではトンネルの開通によってどれほどの効果があったのだろうか?それを確かめる手っ取り早い方法は、実際に旧道を走破してみる事だ。という訳で津山側の坑口付近に舞い戻ってみた訳だが、左に駆け上がる狭路以外に枝道は見付からず、どうやらこいつがターゲットへの導入部らしい。 その線形は誰がどう見ても新旧道交点のそれで、何故これほどに分かり易い交点を今の今で見逃してきたのか首を傾げざるを得ず、どうにも納得出来ず消化不良に陥っている自分がいた。まあ、いいさ。歴史の道に組み込まれた時点で、白日の下に晒されるのは、最早時間の問題でしかないのだから。 |
|
|
◆耕作放棄地脇を駆け上がる旧道 無知から一転して杉ヶ乢マスターへ、逆戻りできない時計の針が動き出した。旧道らしき道筋へと滑り出した僕は、いの一番にある事を実行した。それは幅員の計測だ。MAXで4m、有効幅3.8mの道筋は、国道としては若干物足りないが、一時代前の規格と思えば及第点である。 旧国道の規格は満たしている。勿論幅員が齎す情報はそれだけに止まらない。鉄道の通じない奈義町における唯一の公共交通機関はバスである。このハードルを越えてもらわねば当然次はない。あっさりと認めてもらおうか、路線バスの峠越えを。 杉ヶ乢2へ進む |