教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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出雲乢(1)

★★★

出雲乢(いずもたわ)の取扱説明書

出雲乢、その名称から想像するのは唯一つ、出雲街道の難所にして最大の障壁であるが、その名が市販の地図に刷られるのは稀で、我らがバイブルツーリングマップルでは有史来記載された例は一度も無い。何故なら肝心の峠そのものが存在しないからだ。現場に峠らしきものが認められないから、そこに出雲乢と記載すると意味不明で混乱する。従ってマップルの判断は頗る正しい。しかし現地では聞き取りに応じてくれた古老の全てが出雲乢と言い切った。そこが峠でも何でもないのにだ。始めは地名を疑った。出雲乢とは単なる地名ではないのかと。しかし名称に乢とある以上、出雲乢が峠由来である可能性を否定出来ない。峠無き有名無実の出雲乢、一筋縄とはいかないが、この難題に取り組む価値はありそうだ。当報告書は既知の峠を調べるのではなく、現場が峠か否かを査定する踏査考察記である。

 

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◆県道415号工門勝央線と国道429号線の交点

始めに断っておくが出雲乢なる峠は存在しない。現場を何度も行き来している僕が言うのだから間違いない。また毎日通勤しているドライバーに尋ねたところで同じ答えが返ってくるだろう。出雲乢?何ですかそれと逆質されるのがオチだ。実際に現場は全くの平坦路となっている。

その事実を証明する為に、県道415号工門勝央線との交点を起点に、しばし国道429号線を東進してみたい。榎峠や青垣峠などの難所を残す悪名高き酷道も、ここ美作界隈では交通量の激しい幹線路として機能する。事実白昼の国道は大型小型問わず引っ切り無しに車両が行き来している。

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◆田園地帯の真只中を東西に貫通する国道429号線

前後共に車両が途絶えるのは稀で、このショットも喧騒が鳴り止む一瞬の隙を捉えたもので、この0.5秒後に大型貨物を先頭に車列の一団が物凄い勢いで通り過ぎている。そしてそれとほぼ同時期に対向から車列が近付いてきて、一分と経たずに次の一団が接近するという有様だ。

それもこれも酷道にあるまじき二車線の快走路が延々と続いているからで、しかもそれが果てしなく広がる田園地帯を貫通する平坦路であるから、狭隘路が苦手な大型車はこぞってこの道を利用する。結果国道429号線は中型大型のドライバーにとって無くてはならない存在としてすっかり定着している。

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◆直進する旧道と左へ緩やかに弧を描く現道との交点

国道に並走する広域農道もあるにはあるが、繰り返すアップダウンを嫌って多くの車両がR429に雪崩れ込む。国道の両側には小高い丘があり、高低差は少ないが起伏に富んだ丘陵地帯である事が分かる。しかし国道筋はその底辺に広がる田園地帯を貫いている為、道路の高低差はまるでない。

左へ曲がる緩やかなカーブへと大型車を誘導する標識が、国道429号線の出雲乢新旧道の津山側交点の所在を示しているが、視界の先にはただただ平坦な快走路が続くのみで、乢と呼べるような代物はどこにも見当たらない。これまでに幾度となく通っている道であるから峠が存在しない事など百も承知だ。

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◆峠らしさはまるでない県道67号勝央勝北線との交点

県道67号線との交点より振り返ってみても、パッと見が高低差ゼロの平坦路がどこまでも続いているのが分かる。周囲に点在する古墳状の山々に対し、相対的に低い田園地帯を這い進む国道上に峠などある訳がない。従って地図上に出雲乢の記載を見送った地図会社の判断は頗る正しい。

国道429号線に出雲乢なる峠は存在しない。これは誰が何と言おうと現場の状況を目の当たりにした者の百人が百人そう言い切れる純然たる事実である。

国道に峠らしさは一切認められない

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◆出雲乢の十字路を過ぎても高低差ゼロの平坦路が続く

県道との交点より先に目を向けても、ひたすら二車線の快走路が続くばかりで、峠らしきものは全く見当たらない。では出雲乢とはガセネタなのだろうか?違う。一部の地図にはその名がしっかりと刻まれているのだ。現場は国道429号線と県道67号線が交わる十字路である。

その十字路は田園地帯の真只中にある何でもない平坦路で、周囲の山々とは相対的に低い位置にある交差点が、峠でない事くらい小学生でも分かる話だ。その昔は小高い山があったが、何等かの理由でそいつは切り崩され、峠が粉砕した後は名称だけが語り継がれてきたという可能性もなくはない。

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◆十字を過ぎてしばらくすると国道は緩い登り坂道になる

現場には峠に纏わる物的証拠は残されていない。しかし一部の地図にはその存在が明確に記されており、出雲乢は過去に実在したものの、大幅な地形改変により消え失せ名称だけが生き残った峠、所謂エア峠なのではないか。

出雲乢=エア峠

度重なる峠の切り下げで峠らしさを失った物件は少なくない。従って現国道筋のみにスポットライトを当てればその公算が大である。だが実は出雲乢には旧道が存在する。その道は現国道筋よりも一段高い丘の中腹を伝っている。

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◆勝田側の国道429号線新旧道交点

勝田側の新旧道交点へ向け現国道筋は田園地帯から若干上り詰めるが、進行方向右手後方よりぶつかってくる旧道は、気持ち下り勾配で現道へと雪崩れ込んでいるように見える。高度を増した現道よりも高い位置を走る旧道は、どこかでピークを打っているはず。旧道の絶頂、そこが真の出雲乢なのだろうか?

バイパスとなる現国道筋は肩透かしのエア峠であるが、旧道筋が現役の時分は誰もが認める峠らしい峠で、今も往時の雰囲気を残している可能性は高い。出雲乢は現存するかも知れない。この後その期待に違わぬ峠道を我々は垣間見る事になる。

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