教育委員会が贈る歴史の道調査報告書、その傑作を補完して有り余る佳作、歴史の道踏査報告書〜古老の証言集〜

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川面峠(1)

★★★

川面峠(こうもとう)の取扱説明書

川面峠、全く聞き慣れない峠だ。そりゃそうだ、我らがバイブルツーリングマップルに一度も掲載された例がなく、市販の地図の多くが未掲載であるから、般ピーは基本的にその存在を知る術がないのだから。僕も御多聞に漏れずつい最近までその存在には気付かずにいた。正確を期せば読者からの情報により既知ではあったが、今にしてみればそれは迷宮の入口に立ったに過ぎない。舞台となるのは広島県と鳥取県に隣接する新見市で、歴史道では未着手の空白エリアである。何故今日の今日まで手を付けなかったのか?それは新見最大の謎である九の坂が絡んでいるからだ。当時の僕では手に負えなかったし、強引に着手すれば食い散らかして終わったであろう。しかし今は違う。江戸道以上明治道未満の暫定車道の発掘に尽力し、数多の実績を積み重ねた事で機は熟した。これより川面峠&九の坂の二部構成で新見市街最大の障壁に挑むが、広島・鳥取・島根の各県が絡む壮大な物語が、岡山県の殻を破る突破口となる事を付け加えておかねばなるまい。

 

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◆峠道の起点となる国道180号線の新見インター入口

新見と言えば九の坂、九の坂と言えば新見、最近はEVの給電箇所として立ち寄る機会が増えたが、それまでは新見と一定の距離を置いていた。理由は他でもない新見最大のラビリンス九の坂が控えているからだ。僕が九の坂と対峙するには時期尚早で、自身の力量では処理出来ないと考えていた。

実際に数年前の僕では極めて稚拙なレポートに終始していたであろうし、今でもその考えに変わりはない。当時の僕は一にも二にも経験値が足りなかった。半可通と言われても仕方がない出来のレポと分かっていながら先走るか、それとも機が熟すまで待つかの二者択一を迫られた僕は、迷わず後者を選んだ。

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◆国道180号線と国道182号線の交点井村交差点

これ以上のレポを創るには新見に10日前後は滞在しないと無理よ、それくらいの完璧な報告書を目指すがゆえに、苦渋の決断ではあったが新見との距離を置く事にした。あれからどれくらい経ったのだろう、沈む夕陽をいくつ数えたろう、故郷の友は今でも君の心の中にいますか?的な途方もない歳月が流れた。

どの世界もそうだが、研究成果は逸早く世に出したもん勝ちみたいなところがあり、多少の差はあれど研究者の多くは焦っている。二番じゃ駄目なんですか?のツッコミは記憶に新しいが、検索結果で2ページ目以降がゴミと見做されるのと同様に、一番と二番には天と地ほどの隔たりがある。

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◆歩道の無い二車線の快走路でまずまずの勾配

どの分野でも第一発見者は記憶にも記録にも残るが、二番手を含めそれ以外の人物を答えられる人は稀だ。僅か数時間の差で偉人か異人かの分かれ目となるから、水面下で一分一秒を争う熾烈な生存競争が繰り広げられているのも頷ける。冷酷非道なサバイバルレースに参加者の多くが疲弊している。

僕も道路という分野で一旗揚げようと躍起になった時期があった。全国の名立たる物件を攻めまくり、画素数の荒い見辛い画像と拙い文章で、未知なる領域へと足を踏み入れた。しかし所詮行って来たレベルのレポに過ぎず、そげなチンカスレポで勝負になるほど世の中甘くはない。

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◆国道は九の坂トンネルで峠を一気に突き抜ける

報告書のレベルアップは急務であったが、どこに力を入れるべきかの匙加減が分からない。特異点の数で攻めるのか、それとも道路での無茶ぶりをアピールするのか、それとも歴史的経緯てんこ盛りの情報量で勝負するのか、結果的にそのいずれもが必須事項ではあるが、そのどれもが腑に落ちない。

僕がやるべき事とは何か?それは僕が最も得意とするものとイコールであるが、それが分かった瞬間視界が大きく開けた。僕が最も得意とする術、それはズバリ現地住民とのコミュニケーションである。聞き取り調査を最重要視する事、これがラットレースから離脱する最大の要因となる。

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◆峠下にあたる国道182号線と県道8号線との交点

田舎の人間は他所者に対する警戒心が強い。中には会っていきなり旧知の仲みたいな友好関係を築ける者もいるが、突撃隣の晩御飯的なアポ無しの聞き取り調査では、煙たがられる事の方が圧倒的に多く、快く応じてくれるのはほんの一人握りの人間に過ぎない。

その中でも有用な情報を授かるのは至難の業で、報告書に記載する口頭伝承一筆に対して、その背後には十も二十にも及ぶ古老軍団との無駄なべしゃりがある。それをこなせるのはおしゃべり大好き人間且つ暇人しかいない。日本広しと言えどもその条件に合致する人間はそうはいまい。

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◆中国自動車道と芸備線と国道182号線が一堂に会す

手っ取り早く郷土史家を当るという手もあるが、やはり沿線住民の生の証言には敵わない。本件でもオモローなエピソードを多数入手する事となり、知る人ぞ知る極秘情報且つどの文献にも掲載されない交通史の一次資料的価値があると思うと、正直笑いが止まらない。

古老の口から爆弾発言が飛び出した今だからこそこうしてのうのうと執筆していられるが、当物件に着手した時点では気が気でなかった。というのも舞台が新見最大のラビリンスと謳われる九の坂であるからだ。タイトルが川面峠なのに九の坂を連呼しているところが既に怪しさ満点である。

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◆峠道の事実上の終点となる県道8号線との交点

出来れば避けたい九の坂だが、道を究める以上避けては通れない登竜門で、逆にこの難局を乗り越えれば視界は大きく開ける。何故なら新見から延びる道は、どれも県外へと通じているからだ。当物件は他県進出への布石でもあり、岡山県の殻を破る試金石でもある。

これより新見最大の謎に挑むが、まずは九の坂トンネルを潜る現行ルートを確かめるべく、足早に峠道を駆け抜ける。トンネルに対する旧道は頭上の山道というのが相場だが、そうでないのがラビリンスと称される所以だ。

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